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2020年1月29日 (水)

自転車と父親の教え

『これ出ない?』

と月本さんからLINEが来たのは先月頭のことだった。

それは島根半島東部ナショナルパークライド2020というサイクリングのイベントだった。

なんだか面白そうだし、自転車も貸してくれるとのことだったので参加することにした。

『ロングコース』80kmと『ショートコース』40kmとがあり、素人の僕はショートコースで月本さんはロングコースで参加することになった。

参加することになったはいいけど、ロードバイク(?)タイプの自転車に乗ったことがなく不安だということを伝えると、一度練習しとこうかということになり、わざわざ大阪から奥様のじゅんこさんと自転車を車に乗せ旅行がてらこちらまで来てもらった。

 

その日はあいにくの雨模様だった。

なんとなく止みそうな気配があったので、自転車の練習の前にとりあえずコースの下見に行こうということで、島根半島へ車を走らせた。

優雅に遠くの海を眺めたり、景色を楽しみながらのサイクリングは最高だろうな。

そんなことを考えながらスタートの七類港からコースを車で辿る。

スタート地点からいきなり登り坂。

が続く。

続く。

続く。

結構続くがな!

これおれ大丈夫か。

出だしからウ〜ン、ウ〜ン、唸りながら必死に自転車を漕いでいる自分の姿が浮かぶ。

しばらくすると急な下りが始まった。

うねるカーブも続く。

ガードレールもあるにはあるが背が低く頼りない。

ガードレールに激突して体だけ宙に浮かんで、そのまま海に落ちてしまう自分の姿が浮かぶ。

これは海パンも履いておく必要がありそうだ。

ガードレールの先が海になっているところだけじゃなく、山の谷間になっているところもある。

血まみれになって転げ落ちる自分の姿が目に浮かぶ。

その後も起伏の激しい道が続く。

なかなかハードなコースだ。

景色を優雅に楽しむ余裕はなさそうだ。

気持ちがどんよりしてきた。

がしかし、その分完走した時の達成感も大きいだろうという期待も膨らんできた。

ゴールした瞬間に感極まり、どこかの知らないおっさんに涙しながら抱きついている自分の姿が浮かんできた。

 

その後も車を走らせ、途中水木しげるのおばあさん(のんのんばあ)の出身地である諸喰に立ち寄り、美保神社、美保関灯台を経て皆生へ。

車中、月本さんの家の鎮守の溝咋神社の主祭神の玉櫛媛が、美保神社の主祭神の事代主の間に産まれた子の姫蹈鞴五十鈴姫命が神武天皇の皇后の母親だったということで、縁が深いというような話をしていた。

ちなみに美保神社の主祭神は事代主と美保津姫となっているけど、本来は美保津姫じゃなくて御穂須須美だったという説もあるようだ。

詳しいことはわからないけど。

 

 

皆生に着いた頃には小降りになっていたので自転車の練習を開始(その間じゅんこさんは温泉へ)。

月本さんにアルミフレームの自転車をお借りしていざライドン。

非常に軽い。

変速の使い方を教えてもらいながら月本さんの自転車に着いていく。

サイクルロードを流す。

少し余裕ができたところで海を見る。

疲れたおじさんの独り言のような色だ。

鉛色の空から冷えた風と雨粒に混じって届いた便りは昔の記憶だった。

それは5歳か6歳の頃雑木林近くの広場で、父親の指導のもとに自転車に乗る練習をした時のこと。

いや、その時のことを思い出して父親が喋っていた、確か10数年前に京都で一緒に居酒屋で飲んでいた時のことだった。

 

「あの時しんじは全然自転車に乗れんかったけんなー」

 

「え、そうだったっかいな。

すぐ乗れた気がするけど」

 

「いや、全然乗れんかった。

だけんあの時近くにあった木に登らしただろう。」

 

「あー、確かに木に登った記憶がある」

 

「その後に自転車に乗らせたらすぐ乗れるようになったけんなー」

 

「そうだったっけ」

 

「自転車になかなか乗れんで不安げにしとったけん、木登りさせて自信つけさせようと思って登らせたんだわ〜」

 

なるほど、今から考えると動物とかが不安やストレスを感じた時に、気持ちを落ち着かせるためにとる転位行動の効果があったのかもしれない。

青森に住む父親のことを思い出したのは、この日の朝何年ぶりかに電話で話したからだったのかもしれない。

 

 

そんな事を考えながら、月本さんの背中を追っていく。

月本さんは仕事で来月からリスボンに行くそうだ。

サイクルロードはまだ工事中で、今回は皆生からは夜見あたりまでしか行けなかった。

そこで引き返し、皆生の起点に戻りそこで休憩。

サイクリング会場となる島根半島が遠くに眺めながら、本番うまく走れそうな予感を感じる。

 

 

本番まであと1ヶ月ちょっとになった。

それまでにお尻にクッションの入ったパンツなどの装備品を揃えないといけない。

本番も月本さんに自転車をお借りするので、それまで今日の感触を忘れないようにイメトレをしないといけない。

それに父親が言っていたように木登りもしないといけない。

僕は最近夜中寝言ですごく怒っているらしく、どうやらストレスが溜まっているようだから、木登りは転位行動として効果的かもしれないし、加えて、谷間に落ちた時に必要なスキルになるかもしれないからだ。

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