2019年8月23日 (金)

溶けたのはアイスクリームだけなのか

あつい、あつい、あつい、とにかくあつい。

したたる、したたる、したたる、とにかくしたたる。

つける、つける、つける、とにかくつける。

僕は熱のこもった、もちろんクーラーなどついていない住宅の建設現場で、ひたすら汗を垂らしスイッチ&コンセント照明器具等をひたすら取りつけていた。

ここ最近の米子の最高気温は36、7度の猛暑日が続いていた。

運動は中止しようというアナウンスが日々スマートフォンに送られてくる。

仕事は運動に該当するんだろうか。

「あっついなー」と汗を腕でぬぐいながら、作業車に道具を取りに向かう。

水道管工事で穴掘りをしていた関西弁風の設備屋のおじさんが「中で作業しとるもんが、あついなんて言ったらあかんでー」と声をかけてきた。

しかし中は中で風も通らないし蒸して暑いし外は風がある分マシじゃないか、と言い返そうと思ったけど、炎天下の下真っ黒に日に焼けたスコップを持ったおじさんの時折笑った時に見える歯の白さが、妙に印象的でなんだか気が抜けたので「そうですね、すみませんでしたー」と返しておいた。

この暑い中、無駄な口論をして無駄なエネルギーを消費することは全くもって無駄なことなので、おじさんの歯が白くてよかったと思った。

その後しばらくして、僕は体を冷やすために近くのコンビニにアイスクリームを買いに行った。

この時期仕事の合間に食べるアイスは、美味しいから食べるというより、生命維持のために食べる感じだ。

ガリガリ君にかぶりつきながら体内の温度が下がるのと同時に、頭の火照りがゆっくり鎮まるのを感じる。

「あの人たち休憩もほとんど取らずに結構ハードに仕事していたなー」

と、さっきの設備屋さんのことを思い浮かべながらガリガリと音を立てながら再び現場に向かって歩いていた。

「やっぱ、あの人たちの方が大変そうだ。

工期に追われているんだろうな。

必死に穴掘ってたなー。

呑気にアイスを食べてる姿を見せてまた刺激したらいけんし、アイスを食い終わってから現場に戻ろう。

だし、ゴミも気づかれないように捨てんとな」

など考えながら再び現場に戻る。

相変わらず設備屋さんはハードに穴掘りをしている。

「えーもん食ってまんなー」

「えっ」

「えーもん食ってまんなー」

「えっ、あっ!」

しっかりとアイスのゴミを隠していたつもりだった、というか歩いている途中で隠すことを、というかをアイスを食べていたことすらすっかり忘れて違うことを考えていたので、僕の右手にはしっかりとガリガリ君の食べ終わった木の棒と包装袋が握られていた。

それを逃さずしっかりと設備屋のおじさんは見つけたのだ。

「あ、バレましたか」

「バレてんでー」

「あれ、バレんように隠しといたつもりだったんだけどなー」

「バレバレやでー」

 

この時期の現場仕事はなかなかハードだ。

熱中症予防、事故防止の為、こまめな水分補給とこまめな休憩を取ることが日々あらゆるところでアナウンスされている。

もちろんそんなアナウンスがなくても、喉も渇くししんどいので水分も補給するし休憩もとる。

となるともちろん普段より仕事のペースは落ちる。

それは当然だし仕方のないことだ。

しかし、それに伴って工期が延びるわけでもないので、結局残業をするか、応援を呼ぶか、休みを返上して働くかしかないので労働者は歯をくいしばるしかない(現場によっては休日の作業は禁止されている)。

また働き方改革などの関係で、残業や休日出勤を控えるように厳しく言われている会社の場合、勤務中の時間の圧迫感が半端じゃないのでさらに強く歯をくいしばるしかない。

電気工事の場合、大工工事、内装工事、足場解体、美装など他業者との絡みもあるので、待たすわけにも(待ってもらえないことが多いし)いかないのでのんびりとしていられない。

だったらこの時期は労働者の体を思って全体の工期を延ばせばいいがな、と簡単に思ってしまうんだけど、支払いや、お客さんの引っ越し等の兼ね合いもあって工期に融通が効かないということも簡単に理解できるので、やはり歯をくいしばるしかない。

ということもあり僕の場合会社からの圧迫感は特にはないけど、他業者を待たせたり急かされるのは嫌だし、小まめに休憩をとりながらだと集中力も途切れ途切れになるし、だらだらと長く熱のこもった現場にいる方が長期的に見ると体にかかる負担が大きくなるように感じるし、何より早く家に帰って冷房の効いた部屋で体を休めたいので、休憩はタイトになりがちだ(しかし、当然のことだけど何人かで仕事をする場合は個人的なペースを優先するわけにはいかない)。

というわけで、業種や環境によっては、小まめな休憩を取ってというアナウンスは間違いではないけど、正解でもなさそうだ。

だいたい小まめな水分補給や小まめな休憩は、工期さえあれば(時間に余裕が生まれれば)そういったアナウンスがいちいちなくても誰もが勝手にとるだろう。

なので本当に建設現場の労働者の体を思うなら、小まめに水分補給をして、小まめな休憩をとりましょう、に加えて、小まめに工期を延ばしましょう、というアナウンスが必要になってくる。

といっても工期を延ばした事によって生ずる問題さえクリアーできればの話なので、今の所そんなことがアナウンスされることはなさそうだ。

 

 

今月の頭の方に月本さんの伴奏のお手伝いで大阪に行ってきた。

ワールド航空のお客様向けのレクチャーコンサートで数曲インストゥルメンタルの楽曲を演奏した。

Madragoaという曲を弾きながら、しっとりとしながらも爽やかな涼しさを感じられたのが思い出に残った。

本場の夜のfadoは真っ暗な中で演奏されるらしい。

真っ暗な中だと、音も鋭敏になって歌もさらに熱がこもりそうだ。

このタイプの熱ならじっくり味わいたい。

 

 

夕方仕事帰り、ホームセンターの駐車場にあるたい焼き屋でたい焼きを買って、作業車の中で食べていた。

暑い時に熱いものを食べるのは割と好きだ。

それにここのたい焼きは美味しい。

Madragoaいい曲だよなーと、先日の演奏の感触を思い出しながらたい焼きをかじっていた。

「ボゴッ」

尻尾の方を食べ終わる頃だった。

鈍い音が響いた。

と同時に、頭の中で流れていたMadragoaのメロディーがつぶれてしまった。

どうやら隣に停まった乗用車の後部座席のドアが、降車の際勢い余って僕の作業車にぶつかったようだ。

音の感じからして大したことはなさそうだったし、元々結構擦り傷なんかもあったのでまー別にいいかーと思いながらパワーウィンドウを開けた。

降りてきたのは20代の奥さんだった。

目が合うなり、「すいませんでしたー」と言ってきたので、僕は「元々結構傷があったしまーいいですよー」、と言うつもりだった。

しかし、「あ、でも大丈夫だと思いますのでー」と奥さんが続けてきたので、気持ちがつんのめって思わず閉口してしまった。

そしてそのまま奥さんはお辞儀をして、僕の前を通り過ぎてたい焼き屋の列に並びに行った。

ん。

急激に腹が立ってきた。

許してあげるつもりだったのに何故か気持ちが急激に毛羽立ってきた。

すると、運転席から夫と思われる男性がすいませんでしたと言いながら降りてこちらの方に歩いてきた。

「ぶつかりましたかねー」

「いや、ぶつかっとるがな」

「えーっと、どれですかね」

と言いながら、傷だらけの僕の車の車体を指差している。

傷がいくつかあって当てた傷が特定できないようだ。

すると今度は助手席の窓が開いた。

彼らの父親と思われるお父さんが、もう一度ぶつけたドアを開けて確かめたらと夫と思われる男性に指示をした。

ゆっくりドアを開けた先に確かな擦り傷があった。

「あ、これですねー!」

3センチくらいの白くなった擦り傷だった。

その男性は修理等のやり取りのために連絡先を教えて欲しいと言ってきたけど、前述した通り元々傷だらけだったし、許すつもりだったので断った。

加えてお父さんも、いくらか払いましょうかと申し出てきたけど、それも断った。

それでこの件は終わり。

のはずだった。

なのになぜだ。

なぜ怒りがおさまらないのだ。

初めから許してあげるつもりだったし、許してあげたんだけどなぜか腹が立って仕方がない。

腹が立つということは許せてないんだろうな。

じゃあいったいなにが許せてないんだ。

残りのたい焼きを歯ではなく、怒りで噛みしめる。

夫と思われる男性も丁寧に謝ってくれたし、お父さんもお詫びをしようとしてくれた。

こんくらいの傷、本当にどうでもいい。

きっと風が強かったし思わずドアが大きく開いてしまったんだろう。

理由もわかるし、本当に大したことのないことだ。

だけど怒りがおさまらない。

大したことないことないのに腹が立っている小さい自分にも腹が立つ。

仕事の時に飲んでいたぬるくなったアクエリアスの残りでたい焼きを流し込む。

視線の先にはたい焼き屋に並んでいる奥さんの後ろ姿。

引っかかるのはあの奥さんだ。

「あ、でも、大丈夫だと思いますのでー」

と言ったあの言葉だ。

確かにあの奥さんの言う通り、傷だらけでオンボロの作業車だしこれくらいの傷は全然気にならないし大丈夫だ。

そう、大丈夫。

奥さんの言う通り大丈夫だ。

間違ってない。

お会計を済ませ、たい焼きの入った紙袋を手に提げ奥さんは隣の車に乗り込んだ。

そして乗車した人たち全員がこちらにお辞儀をして去っていった。

その車が見えなくなってから僕はぶつけられた傷をしっかりと見るため車を降りた。

確かに新しく白いこすり傷がついている。

設備屋さんの歯の白さを思いだした。

と言うか、思ったより目立つ傷だがな。

傷に指先で触れてみる。

擦ったところで消えるわけでもないのに擦ってみる。

この傷が大丈夫かどうかを判断するのは、ぶつけた奥さんの方じゃなく、ぶつけられた方の僕じゃないのか。

というところに引っかかって僕は気持ちがつんのめってしまったことを、再認識した。

 

家に帰って、妻に車のドアをぶつけられた話をすると、そこのたい焼きが食べたかったと言われた。

 

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2019年7月28日 (日)

塀の裏で僕は汗をかいて働いていただけさ

「あのおばさん借金まみれで駆け落ちなんだけん」

「えっ、うそ!

なかなかすごい人生送ってるなー」

「だけん毎日忙しくて睡眠時間3時間くらいなんだってー」

「はー、すっごいなー。

いろんな人生があるなー。

見かけによらず、すごい人生を送ってるもんだなー」

 

とあるホームセンターのレジ店員のおばさんが僕の奥さんの知り合いで、会計の時に声をかけられたので、店を出てからそのおばさんについて奥さんが話してくれた。

 

「でもあのおばさん結構な年だよなー。

何歳の時に駆け落ちしただー?」

「はー?

何言っとるだー。

駆け落ちなんかしてないよ」

「えっ、さっき借金まみれで駆け落ちって言っとったがな」

「そんなの言ってないわー。

サーティーワンと掛け持ちって言ったんだがん!」」

 

耳くそが耳の穴にズッポシ溜まっているせいか、僕は『サーティーワンと掛け持ち』を『借金まみれで駆け落ち』と聞き違えてしまったようだった。

というわけでそのおばさんは昼間ホームセンターのレジ打ち、夕方からサーティーワンで働く駆け落ちなどはしていない、家に帰ってからも家事などで日々忙しいおばさんだということだった。

最近聞き違いが多いばかりでなく、聞き違いされることも多くなった気がする。

先日コンビニのレジでおやつにビッグサンダーを購入する際、レジ袋は結構ですという意味で、「あ、そのままで」と店員さんに声をかけると、

「あ、Tマネーで」と返されたので、慌てて、「あいや、そのままで」と言うと今度は「あ、アプリで」返されたので、もうここまで来ると単なる聞き違いじゃなくて思い込みにまで発展しているなと思い、一度間をおいて「あ、レジ袋は結構ですので、そのままでお願いします」と落ち着いて伝えた。

すると店員さんはハッとして、それまで作業していた手をピタッと止め、顔を上げこちらを向いて、「とんでもない聞き違いをして、すいませんでした!」と、とんでもなく丁寧なお辞儀で返してきた。

その感じが何だかものすごい間抜けで笑けてきたので、しまいには店員さんと二人で笑ってしまった。

今回のケースは多分僕自身の滑舌の悪さの影響もあっただろうが、店員さんの思い込みの部分も強かっただろうと思われる。

笑いながら、多分僕が聞き違いをしてしまう時も、耳くそのせいにしていたけど、大体は思い込みで聞き取ってしまっていることが多いんだろうなと思った。

 

 

「傘持ってきてないのに何で降ってくるだやー!」

急に雨が降ってきて濡れてしまうのがよほど嫌だったんだろうか、夕方アパートの窓の外からどこかのおばさんの怒号がきこえてきた。

ここまで叫ばずにはいられなかった理由は、果たして雨で濡れるのが嫌だったから、だけだったんだろうか。

それだけの理由であそこまで叫ばなければいけなかったとは考えづらい。

その声で思い出したことがあった。

18歳の時に大阪で部屋探しをするために西中島南方の駅に降りた時だった。

階段の途中で、くたびれたスーツ姿のおじさんが「クソ!!アホ!!バカ!!シネー!!」と叫びながら闇雲に雨傘を振り回していたのを見かけた。

その時は何にもない空中に向かって傘を振り回しているアブナイおっさんだなーとだけ思って、冷めた目で通り過ぎただけだったけど、その振り回している傘の先には、本当は誰か具体的な存在がいたということは、今になるとよくわかる。

と同時に現在僕自身そのおじさんと同じくらいの年齢に差し掛かかり、そのおじさんをアブナイおっさんだなーと一言で片付けられるほどの若さはすでに無くなってしまったことに、ふと気づいた。

さっき窓の外で叫んでいたおばさんも、声の響きから西中島で見たおじさんと似たような怒りを含んでいたように思えたけど、違うかもしれない。

 

 

ふじわらたーつーやー♪  ふじわらたつーやー♪  ふじわらたーつーやー♪

ふじわらたーつーやー♪  ふじわらたつーやー♪  ふじわらたーつーやー♪

ふじわらたーつーやー♪  ふじわらたつーやー♪  ふじわらたーつーやー♪

ふじわらたーつーやー♪  ふじわらたつーやー♪  ふじわらたーつーやー♪…

 

現場で仕事をしている時、塀を越えて隣の家から藤原竜也のことが好きでたまらないといった感じのオリジナルソングを歌う若い女性の声が聞こえてきた。

そのストレートな声の響きと、取ってつけたような飾りっ気のない単調なメロディーに僕はすっかり骨を抜かれ、ラブソングは愛しているとか、大好きだとかいう必要はなく、ましてやその人を何かに例える必要などもなく、ただその人の名前を歌詞として歌えば十分なんだということを知った。

僕にもかつて好きな人の名前を声に出すだけで悶絶していた時期があったので、彼女の気持ちはよくわかる。

それにしても長い。

長い。

長すぎる。

彼女の歌が一向に終わらないのだ。

こうずっと、ふじわらたーつーやー♪ふじわらたーつやー♪と聞かされるとさすがに参ってくる。

もういい加減静かにしてほしい。

だけど、気持ちが爆発しすぎて歌ってないと気分が収まらないっていう気持ちもわかる。

だったらせめて違うメロディーで歌ってくれないか。

違うメロディーがないなら、さっきはああ言ったけど、せめて違う歌詞で歌ってくれ。

藤原達也を空に例えるとか海に例えるとか花とか色々とあるだろう。

もしくはバージョンを変えるとか。

というか、今仕事中だしやっぱ静かにしてくれ。

という僕の想いが彼女に伝わったのか、しばらくして歌が止んで静かになった。

ほー、良かった。

歌で気持ちを吐き出し切って、少しは落ち着いたみたいだな。

 

「ゔぁああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

「ゔぁああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

 

と思ったら阿鼻叫喚、今度は脳天をつんざく彼女の叫び声。

おいおい、どうしたんだ。

もう仕事どころではない。

声のする方に目をやるが、そこには家と家を隔てたブロック塀があるだけだ。

 

「う〜、う〜、う〜、う〜、う〜、う〜…

う〜、う〜、ふじわらたつや〜、う〜、

ふじわらたつや〜

う〜、う〜」

 

床でのたうちまわり、泣き崩れている姿がはっきりと目に浮かぶ。

 

「う〜、う〜、う〜」

 

だんだん落ち着いてきたようだけど。

 

「誰にも渡したくないーーー!!!

ゔぁああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

 

その後しばらくして彼女の気持ちは鎮まったのかはわからないが、静かになった。

それ以来その現場に何度か行くことがあったけど、彼女の歌声を聴くことはなくなった。

 

 

鬱陶しい季節が始まった。

相変わらず忙しない日々を繰り返している。

何かに向き合ったり何かを後回しにしたりして、なんとかケツで無理して調整して日々を乗り切っている感じだ。

そんな事とは関係なくパラダイムシフトは足音を立てずに歩き続けている。

その足の裏で静かに踏みつけられる人達がいる。

潰れた感情は雨にも流されず沈殿したままだ。

問題はすり替えられるわけも、うやむやになるわけもなく、増えていく一方だ。

多様性を受け入れる寛容さはどこまで必要なんだ。

今の僕は傘を振り回しているおっさんと、傘の先に立っていただろう人とどっちに近いんだ。

果たして彼女の歌声が藤原竜也の胸に響く日は来るのだろうか。

僕にはわからない。

とりあえずネバつきのある汗がとても不快でたまらない。

さっぱりするためにシャワーを浴びる。

風呂上がり、生乾きの臭いのするバスタオルが不快感を誘発する。

そして僕はサーティーワンのアイス、じゃなくて雪見だいふくを食べている。

 

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2019年6月25日 (火)

威張って言うほどのことじゃないですが、そのお金ならもう払いましたぜ

お昼時の吉野家はすごく混み合っていた。

僕はかろうじて空いていた小さなテーブル席に座り、鯖みそ牛定食を注文してトイレに向かった。

しまったなー、人が多いし結構待つことになりそうだなー。

そんな事を考えながら用を足して席に戻った。

あれ、思ったより早い。

しばらくすると、注文した料理が運ばれてきた。

少人数のスタッフしかいないけど、テキパキと要領よく仕事をこなしているからスムーズに流れているんだろう。

ご飯をかき込みながら、僕はスタッフの動きを見ていた。

仕事が早いだけじゃなくて、接客対応も丁寧だ。

その流れを継承してなのか、お客さんの回転もスムーズだ。

素晴らしい。

かといって、みんなせかせかしているというわけじゃなく、老夫婦に関してははゆったりと食事を楽しんでいる雰囲気もある。

強要された雰囲気が全くない。

なめらかに穏やかにスムーズだ。

これはなかなかレベルが高い。

僕はすっかりこの雰囲気を気に入ってしまった。

そして僕はこのスムーズな流れにさりげなく貢献できたらと思い、あらかじめ財布から会計金額を取り出し、レシートは結構ですとスマートに告げ、何事もなかったかのようにスムーズに会計を済ませることで僕自身ベストな一日が送れるはずだ、と作業ズボンのサイドポケットに手を入れた。

しかし、ない。

ない。

ない。

ないのだ!

あるはずの財布がないのだ!!

何でだ。

何でねーだや。

しかしここでここで慌てないのが素敵な大人のおじさんだ。

落ち着け俺。

店内を見渡し、気持ちを一旦財布から遠ざけてることにする。

うーむ、店員さん変わらず無駄のないテキパキした動きだ。

素晴らしい。

いいねー。

いい感じだ。

さて、そろそろ財布を取り出そうかな。

再びポケットの中に手を入れる。

だが、ない。

まー、あるわけないわな。

ないのはわかっているけど、ポケットを叩いてみる。

往生際が悪い性格に苦労する。

手のひらに太ももの感触が伝わる。

と同時に太ももに手のひらが当たった感触が伝わる。

ポケットは空っぽなわけだし当たり前だ。

うーむ、どうあがいても財布がないという現実は曲がってくれないようだ。

「あっ…!」

とその時、家のテーブルの上に置いてあった財布の映像が脳裏をよぎった。

そうか、朝財布を持って出るのを忘れてたんだ。

ツーっと粒の大きい汗が身体のラインを舐めるように滴り落ちる。

さて、今からこの店を出るためにはお会計をしないと出れないわけだけど、全く手元にお金がない。

で、どうすればいいんだっけ。

わからない。

40年近く生きてきたけどわからない。

入り口には入店待ちのお客さんが並んでいる。

どさくさに紛れてそのまま出て行けばいいのかな。

いや、ダメでしょうな。

新婚早々そんなことして捕まったら離婚されても仕方ないわな。

そうなったら母親は泣くわな。

俺も泣くわな。

多分兄も泣くわな。

意外とここは人生の分岐点なのかもしれない。

どこに人生の分岐点が潜んでいるのか分からないもんだな。

困ったな。

困った時は相談だ。

そうだ、とりあえず店員さんに相談しよう。

しかし、相変わらずテキパキと無駄のない動きで仕事をしているので声をかけるタイミングがない。

それでもちょっとくらい話せるタイミングがあるだろうと、店員さんの様子をそれとなく伺う。

お客さんが食べ終えた食器のお盆を両手に持っている…今じゃないな。

注文した料理を運んでいる…今じゃないな。

お会計をしている…今じゃないな。

うーむ…。

仕事が完璧すぎて全く隙が、無駄が、ないじゃないか。

それはそれで困るじゃないか…。

もうどこが負担のかからないタイミングなのか分からない。

店員さんが注文を取りに水を持って少し早歩きでお客さんのテーブルに向かっている。

今がチャンス!!

だと思う。

 

「すいません!」

スクッと立ち上がり声をかけた。

「はい」

「あの、財布を忘れてしまったんですけど、どうしたらいいですか?」

「あ…」

「ちょっと家に取りに帰ってきてもいいですか?」

「え…

少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか」

 

店員のお姉さんはそう言ってお客さんの注文を取りにいき、その後僕の不安を取り除くような声で「大丈夫ですよ」と紙切れとペンを手持ってやってきた。

その紙に念のため名前と連絡先を書くように言われ、僕は急がなくてはとペンを走らせた。

しかし、焦るとかえって手間取ってしまうものだ。

急ぐと焦るは似て非なるものだ。

0を書き損じて書き直したのが、6なのか0なのか8なのかなんなのか分からない数字になってしまったので、その部分に矢印を引っ張って、これは0ですけん、とスタッフのお姉さんに説明しながら0と記入し、大切な時間をロスしてしまった。

しかしそんなどんげなおじさんに対しても丁寧に大丈夫ですよと声をかけて頂き、恐縮し「すいません、じゃあちょっと急いで取りに帰って来ますけん」と伝え僕は入店待ちをしている行列を、対抗車線を逆走してしまった老人ドライバーのような気分で「すいません、すいません」と掻き分け掻き分け店を出た。

 

なんで、財布を忘れただーかなー。

何でだーかなー。

家までの道中独り言を呟きながら、なんでこんなことになってしまったのかをずっと考えていた。

 

 

先月25日のイベントは楽しかった。

色々な意味でスケールアップしたモヤ君のカラーリングがとても素敵なライブペイント、うつみあいちゃんの内蔵の隅々まで染み渡る歌声、APACHE君の華やかなDJ、ニューアルバムを引っ提げ一体感が増しパワーアップしたMOTORSのパフォーマンスとサプライズソング、THE COMIN'のはち切れんばかりのエネルギーで会場が満たされた夜だった。

数日前に急遽歌うことになり僕もオープニングでギターを弾いて4曲歌った。

内2曲はジュンちゃんにベース、テナーサックスと歌で由利君にも入ってもらった。

みんなで演奏するのは懐かしいというより、新鮮だった。

また一緒に演奏する日が楽しみだ。

 

「地獄見てかな〜い?」

「お化け屋敷のぞいてかな〜い?」

 

打ち上げの後、ダイゴウくん、由利君、千ちゃん、あいちゃん、僕、奥さんで通りを歩いていると、白髪のお目目ぱっちり化粧の濃いおばあさまなのかおじいさまなのか、おじいさまなのかおばあさまなのか、どちらとも言えないなんとも魅惑的な方の魅惑的な言葉につられてとある雑居ビルの二階の店に入った。

そこは70オーバーの前期高齢者のスタッフがメインのオカマスナックだった。

「お兄さんエロい顔してるわね〜。

タイプだわ〜」

とネネさんだったかベティちゃんだったかに僕はなんどもなんどもなんどもなんどもなんども言われ、普段そんな嬉しいことを言われたことがないので上機嫌になった。

みんなそれぞれカラオケを歌う。

その後サービスでこれまた何とも言えぬ魅惑のショウを見せて頂く。

何だかものすごく楽しかった。

という印象は残っているけど、ショウの内容は酔っ払ってあまり覚えていないので近々また見にいこうと思う。

久しぶりに遅くまで楽しいお酒を飲んだ。

 

イベント翌日はモヤくん夫婦とあいちゃんと、境港観光をした。

色々な話をしながらのドライブや鬼太郎ロードは楽しかった。

モヤくんはこの後バンコクで仕事だったり、あいちゃんもフィリピンへと、これからの活動の話をしてくれた。

夜はケイ君夫婦とあいちゃんと僕ら夫婦でホルモン焼き屋さんで楽しんだ。

みんな来てくれてありがとう。

 

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そして今回イベントを開催するにあたって色々な人にお世話になりました。

準備の段階では、色々とラフズの店長藤原さんには丁寧に相談にのっていただき大変お世話になりました。

フライヤー制作に関しては本当にMOTORSのあっちゃんに骨を折って、これまた大変お世話になりました。

フライヤー配りはイベントへのモチベーションが上がって楽しかった(松江方面に同行していただいた奥田さんありがとうございました)。

タカシがモヤくんのライブペイント用に精度の高い土台を作ってくれて、大助かりだった(ほんとに忙しい中ありがとう)。

みんなの気遣いが行き渡っていて、イベント自体もスムーズに流れて無駄な心配もなかった。

歳をとってから、こういうイベントをするのは思った以上に楽しいということを知った。

と同時に至らぬ点、足りないことも色々と痛感した。

バッチを買ってくれた方ありがとう(もっと売れると思ってたんだけどな!)。

見に来てくれた皆さん本当にありがとうございました。

 

このイベントを企画してから本番が迫るにつれ、いつもの日常生活に亀裂が入りそこから違和感(のようなもの)が少しずつ込んできたのを感じた。

それはどこか懐かしい感覚だった。

違和感が入り込んだ事で眠っていた細胞が目を覚まして、日常生活に張りと潤いが出て来たんだろう。

こういうのはいいなと思った。

しかしこの違和感は思った以上に僕の日常に浸水していたようで、気がつけばパンツまでビショビショだった。

だから僕は、財布も持たずに呑気に牛丼屋で飯を食べてしまったんだろう。

 

しかしそれでもいいことがあった、と日が経ち気づくことがあった。

上手だったり、下手くそだったり、スムーズだったり、ぎこちなかったり、感動的だったり、拍子抜けしたり、ウマがあったり合わなかったり、肌が合ったり合わなかったり、期待通りだったり、期待通りじゃなかった、としても、恋をしたらその気持ちを大切な人に伝えるんだよ、というシンプルな人生のテーマを思い出すことができからだ。

恋は人や物だけにするものじゃなかった。

今回伝えきれなかった想いはまた伝えよう。

また懲りずに歌っていこう。

腹筋ローラーを買ったし腹筋ローラーも頑張ろう。

そしてまずは吉野家の店員さんにお金を払って、すいませんでしたと伝えるところから始めよう。

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photo by Nobuya Fuke

 

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2019年5月22日 (水)

はい!っていうわけでございまして!

こないだ、『ハイ!というわけでございまして!』が口癖の人に用事があってLINEをしていたら、文中に『はい!っていうわけでございまして!』と書いてあったのでハッとなった。

どうやら僕は微妙に間違えていたようだ。

『というわけでございまして!』じゃなくて、『っていうわけでございまして!』だったのだ。

思い込みや勘違いってなかなかなくなりませんねー。

 

はい!っていうわけでございまして、前回MOYA君にはとりあえず謝っておきたいことがあると書いたところで前回は終わっていたので続きを書きます。

そう、あれは今から5、6年前のことだった。

いや、もっと前だったのかもしれない。

その頃僕はまだ京都に住んでいて、由利君とMOYA君と3人で円山公園に夜桜を見に行った時のことだった。

なんとなく肌寒かったのを覚えている。

いろんな意味で行くあてのない僕らはひたすらお酒を飲んでいた。

特にMOYA君が日本酒をひたすら呑んでいたのを覚えている。

酔っ払った僕らは一体何を話していたんだろうか。

全く覚えていないけど、僕は寒さとお酒で頻尿になりひたすらトイレに行っていた。

さすがにこの時期の円山公園は人が多く、22時頃になっても人が沢山いた。

誰が言い出したのかはさだけではないけど、おっさん三人で呑んでいても何だかアレだしどこか女の子に声をかけようという話になった。

ぐるり見渡したところで、数メートル先に三人の女の子だけのグループがいたので、あの子達に声をかけてみようということになった。

で、誰が声をかけに行く?という話になりジャンケンで負けた人が声をかけに行こうということになり僕らはジャンケンをした。

ジャン、ケン、ポン!!

ズコッ!

結局僕が負けてしまったので僕が声をかけに行くことになった。

改めてお酒をグビグビっと胃に流し込んだ。

そして僕は立ち上がって彼女たちのいる方へ向かった。

さぁ、なんて声をかけようか。

ドキドキ。

「あー、どうもこんばんわー」

「・・・」

しゃがんで座っている彼女らと目線を合わせる。

「お花見ですかー」

「・・・」

「いやー、寒いですねー」

固く閉ざされた彼女たちの氷の扉を僕は素手でノックし続けた。

だからナニ、と明らかに伝わってくる彼女たちの冷たい眼差しの中僕なりにベストは尽くした。

けど、ダメだった。

手の平は完全に凍傷になってしまった。

なんて冷たい扉なんだ。

すくっと立ち上がり、僕はトイレに向かって歩き出した。

まー仕方ないなー、またみんなと飲み直すかー。

オシッコをしながらそんなことを考えていた。

フラれてしまったけど、それを肴に飲むのもいいじゃないかー。

由利君やMOYA君はなんていうかなー。

きっと慰めてくれるだろうなー。

夜空を見上げながら思った。

それはそれでなんだか楽しみになってきた。

気がつけば凍傷だったはずの手の平も綺麗に治っていた。

気を取直し僕は彼らの待つ場所へ戻って行った。

スタスタスター。

あれ、どこだ。

いるはずの場所に彼らの姿が見当たらない。

え、なんで。

しかし、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

声のする方に行ってみると、さっき僕が声をかけた女の子たちと由利君とMOYA君が楽しそうに話をしていた。

え!なんでだよー!

たまらず僕は彼らの輪に入り込んだ。

「さっき僕が話しかけた時無視しとったのに、なんでみんなで楽しくやっとるんだよー」

「え、だって怪しそうだったもん…」

「え、怪しくないわ…」

ショックで目の前の桜が全部散ってしまた。

その後どんな会話をしたのか覚えていないけど、しばらくして彼女達と別れ、僕ら三人は河原町の方に向かって歩き出した。

僕らはなかなかの酔っ払いだった。

中でもMOYA君はかなりの千鳥足だった。

鴨川まで行かないあたりで、ガールズバーかなんかのキャッチに捕まって僕らはとりあえず一時間飲みに行くことにした。

 

ビタン!!!

 

どっかの雑居ビルに入りエレベーターに乗って店に入るなり、ビタン!とMOYA君はいつかの曙選手のように床に倒れこんだ。

あ、大丈夫かな?と思ったけどそのまま床で気持ちよさそうに寝ていたので、僕はおねえちゃんの太ももをさすりながらお酒を飲むことにした。

由利君はカウンターで店長らしきお兄さんと話をしている。

時間が来てお会計となった。

寝ていたMOYA君を起こす。

床で寝ていただけだけど、もちろんしっかりとお金を払っていた。

その後MOYA君は立ったまま寝ようとしたので、慌てて店のお兄さんが肩を担いでビルの外まで運んでくれた。

その後バトンタッチで僕と由利君でMOYA君を肩に担いで歩き出す。

「めっちゃ重いなー」

「これは重いわー」

「どうする」

「どうしよっかー」

由利君との相談の結果タクシーにMOYA君を乗せて家まで送ってもらうことにした。

四条通りに出て手を挙げタクシーを止める。

後部座席のドアが開かれる。

「よーいっしょ!」

僕と由利君は後部座席にMOYA君を放り投げた。

タクシーが大きく揺れる。

MOYA君は後部座席のシートの上で気持ちよさそうに寝ている。

「お願いします!」

「どちらまで?」

「家、どこやったっけ?」

「確か、円町って言ってたと思うけど」

「お客さんらは乗らないの?」

「あ、僕らは乗りません」

ま、なんとかなるだろう。

あとはタクシーのおじさんに任せた。

「円町方面でお願いします!」

とだけ言い放って僕はタクシーのドアーをバタン!!と閉めた。

タクシーが発車したのを見送りながら、由利君が大丈夫かなーと呟いた。

僕はなんの根拠もなく大丈夫でしょ!と自信を持って言った。

一仕事を終え、小腹の空いた僕と由利君はその後なか卯に寄って牛丼を食べて帰った。

 

 

円山公園で花見してて…、何度もシッコに行って…、あの子らに無視されて…、キャッチに捕まって…、MOYA君床で寝とったなー…

翌日昼前に目が覚め部屋の天井を眺めながら、ぼんやりした頭で昨夜のことを反芻していた。

…んで…

…あれ、あのあとMOYA君をタクシーに乗せて…

どうなったんだっけ!?

詳しい家の住所も知らないままタクシーに乗せたけど大丈夫だったのか?

 

気がつけば僕は自転車の上で、MOYA君の働くカフェを目指してペダルを漕いでいた。

息を切らしカフェの階段をのぼる。

扉を開きカウンターの方に目をやる。

そこにはいつもと変わらない笑顔で迎えてくれるMOYA君がいた。

「昨日無事に帰えれた?」

安堵の息を吐く間も無くカウンターの椅子に座り僕は尋ねた。

「いやー、大変でしたよー」

あの時面倒くさくなってMOYA君をタクシーに放り込んで円町方面でお願いします!って言ってタクシーのドアを閉めたんだという事を伝えると、円町駅付近でタクシーのおじさんに起こされて、上からも下からも全部出そうで家に着くまで大変だったとMOYA君は笑いながら話してくれた。

タクシーのおじさんとMOYA君、今度奥歯の銀歯で銀紙をガジガジするから許して下さい。

さて、そんな彼はその後SUMMER SONICにライブペイントで出演したり、日本だけでなくアメリカやアジアの方でも活動の場を広げ、日々絵を描きながら戦っているようだ。

きっと今回のイベントでも懐の大きい男の作品を見せてくれるだろう。

すごく楽しみだ。

 

そういえば、一度岡山にあるMOYA君の実家に泊まりがけで遊びに行ったことがあった。

ご両親と雑談をしている時MOYA君のお父さんが、今ブラック企業とか色々言われているけど、自分が納得して働けているならそれでいいと思うし、自分で納得のいくように変えて行くことも大事だと思うよ、というような事をおっしゃっていた。

当時僕は無職でその話に対して特に何も感じていなかったけど、地元に戻って仕事に行き詰まり職場を転々としている度に、MOYA君のお父さんが言っていた言葉を思い出すようになっていた。

仕事をしていれば納得のいかないこともたくさんあるし、腹の立つこともたくさんある。

しかし、納得のいかないことや腹の立つ事の先に嬉しいことがあったり、楽しいことややり甲斐があったりもする。

だけど大体渦中にいる時は目先のことでいっぱいいっぱいでそのことに気付けないでいる。

どこで自分の気持ちと折り合いをつけるのか。

なかなかスパッと簡単に解決しないので、時折忘れたりしながら繰り返し考えている。

 

そんな仕事を転々としていた頃に、一緒な職場だったのが今回DJで参加してくれるAPACHE君だった。

なかなか仕事や人になじめず、重た〜い日々を過ごしている中で彼と音楽の話や冗談を言い合ったりしているのが唯一の救いだった。

あの時APACHE君がいなかったら今頃僕はカラカラに乾ききったミイラになっていただろう。

本当に彼の存在に助けられた。

その頃にいつかイベントで一緒に何かできたらいいなーというような話をしていたので、今回実現できたことは嬉しくて仕方がない。

APACHE君は今回の出演者の中ではズバ抜けて若く、積極的に県内県外問わずラッパーとして活動していて、自身でもイベントを立ち上げたりしている。

今回僕らの世代では感じられない風が吹いてきそうで、すごく楽しみだ。

 

 

 

 

 

HOLD ON , I'M COMIN!

2019年5月25日土曜日

●前売り2500/当日3000(共にドリンク代別)

●open18:00/start18:30

●チケット発売日4月1日

●場所 米子AZTiC laughs

 

<ライブショウ>

THE COMIN'(鳥取)

MOTORS(京都)

うつみあい(福井)

 

<ライブペイント>

MOYA(京都)

 

<DJ>

●APACHE(鳥取)

 

Lコード:62445

Pコード:144-070

e+(イープラス)

 

<問い合わせ先>

米子AZTiC laughs

鳥取県米子市道笑町1-3 BMEビル

0859-22-0727

laughs@aztic.net

営業時間

平日15:00-22:00

土日祝13:00-22:00

 

急遽ちょっとだけ僕もギター弾いて歌うことになりました!

新作の田中プロ缶バッチもできました!

はい!っていうわけでございまして!

色々と書いてきましたが、本当のところこれといって特に何もないかもしれませんが、みなさんお待ちしております!!

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⇧田中プロFado缶バッチ。 

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2019年4月28日 (日)

ハイ!というわけでございまして!

イベントを計画した約一年前から、今までの間で身近なところでいろいろな変化があった。

英会話を途中で断念したり、第1種電気工事士の資格を取得したり、お酒の量が減ったり、体の不具合が顕著になったり、体力はまだ挽回できると教えてくれた年上の大工さんの仕事を含め色々なことに尊敬したり、ふとした瞬間に死んだお祖父さんの匂いが自分の体からするようになってどんよりしたり、友達が離婚をして一人暮らしを始めたり、昼間基礎屋をやっている奴が夜スナックの店長を始めたり、会社に出てこなくなった人が引き続き出てこなくなったり、昼間から酒を飲んでいる人が全然羨ましくなくなったり、自己防衛のための笑顔が違う意味を含む笑顔になったり、なかなか良さげな人と巡り合い結婚することになったり、それに伴って引越しをすることになったり、起きる時間の一時間前くらいに尿意で目が醒めるようになったり、4月11日放送のアンビリーバボで余命僅かの奥さんのために内緒でピアノを練習して弾いてあげた旦那さんのピアノが素敵すぎて激しく涙したり、「ハイ!というわけでございまして!」が口癖の人が変わらず「ハイ!というわけでございまして!」と言っていたり、相変わらず休みが少なかったり、レンタルの高所作業車をパンクさせたり、ストレスに対して自己消化力が上がったり、というか鈍感になったのかなと思ったり、めっきりギターを弾く時間が少なくなったり、クロス屋さんにコンパクトなインパクトをもらって器具付けは主にそれを使うようになったり、知れば知るほど各業者に対してのリスペクトが湧いてきたり、アンドレー・ヴァスと月本さんと再び一緒のステージで演奏できて嬉しかったり、知り合いのエアコン屋さんが工事中僕の背後で高い塀から落ちたのに大した怪我もしていなかったり、長靴に穴が空いていたり、移転した珍宝楽のセロリーメンが激うまだったり、謎の死を遂げた人がいたり、長く勤めていた人が仕事をやめたり、イライラすると相変わらずトチ狂う自分に腹がたつので孔子先生に教えを乞うため論語を少しずつ日々ノートに書き留めるようになったり、ふつうの硬さの歯ブラシをやわらかいのに変えたり、3人の子供と奥さんを鳥取に残し東京に少なくとも2、3年は単身赴任になった人がいたり、平成が令和に変わることになったりと、まー大した変化はないようで、一年も過ぎればそれなりに何かしら変化があった。

 

だいたいどういう理由でイベントをしようとしたのかは定かではないけど、今年40歳になるわけだけど、新たな一歩を踏み出すために、というか日々暮らして行く中で生まれる理不尽に対し不満と傲慢と暴言で応えるだけのつまらない自分に対して、早いとこ別れを告げて身軽になろうと思ったのが根源にあると思われる。

体がどんどん重たくなってくるのに、気分が軽やかに生きられないのはごめんだ。

きっとそういう気持ちは僕と同じだろうと思われる表現活動をしている友人を中心に、今回イベントを開くことにした。

 

というわけでまず地元の中学校時代からの友達がやっているバンド、THE COMIN'のタカシとケイ君にイベントのことを相談したところ、快く承諾してくれた。

THE COMIN'は地方に必ずと言っていいほどいる形骸化したパンクバンドとは何かが違う。

それは何かと言われるとよくわからないけど、ライブを見ればなるほどなーときっと納得できると思う。

僕が京都にいた頃、遠征で来ていた彼らのライブを何度か見に行ったことがあった。

その時何組かのバンドが出演していたけど、頭一つか二つ飛び抜けて他のバンドよりTHE COMIN'のライブの方が良かった。

じゃあどこが他のバンドより良かったかと言われるとよくわからないけど、ライブを見ればなるほどなーときっと納得できると思う。

と言うわけでTHE COMIN'のライブを是非生で見て欲しい。

失敗してしまうかもしれない、ダメになってしまうかもしれない、失ってしまうかもしれない、だけど上手く行くかもしれない、やってみないとわからない、けどやりたくない、やらなくていいならやりたくない、でもやらないといけない、やっぱやらないといけないんだろうなぁ…そんな時に必要な何かが得られるかもしれない。

というのも彼らは日々の激務をこなしながら、変わらずずっと8ビートに乗って県外遠征したり、今この瞬間も積極的に活動を続けていて、そんな彼らの姿に僕は刺激を受けているからだ。

去年の今頃から彼らと月一で年末頃までイベントのミーティングをしていた。

今回のイベントは彼らの協力なしでは成し得なかったのは間違いない。

 

それから次に声をかけたのは、京都に住んでいた頃によく一緒に遊んでいたMOTORSのメンバーだった。

テナーサックスの由利君に「イベントしようと思っててちょっと電話で相談したいんだけど」とLINEしたところ、「じゃあ明後日そっちに行くわー」(えっ!そんなに簡単に来れちゃうもんなの?)と、アマゾンの配送くらい軽やかに京都から境港まで来てくれた。

それくらいフットワークが軽い人だし、イベントの相談事は出会って5分くらいで終わって出雲松江方面にドライブに行った。

決断力、実行力のある人はいつでも魅力的だ。

由利君はサックスを持ってきてくれていて、何年かぶりに一緒にスタジオに入って音合わせをした。

京都から戻ってきて作った曲や京都にいた頃に作った曲を数曲合わせた。

なかなかぼやけた演奏だったりしたけど、お、これいいんじゃないか!と思うような瞬間も何度かあり、いずれしっかりと曲を固めて再び演奏する日があるのを確信した。

本当にあの日は嬉しかった。

MOTORSのメンバーのヒロユキ君や、だいごう君、千ちゃんや、ユウ君、あっちゃん、ジュンちゃんともLINEをしながらイベントのモチベーションが上がってくるのを感じた。

特に今回のフライヤー制作にあたって(主に全体のレイアウト、裏面のデザイン)はキーボードのあっちゃんに本当にお世話になった。

京都にいた時は本当によく遊んだし、夜が明けるまで色んなことを熱く語り合った。

MOTORSのライブを生で是非見て欲しい。

こんな感じで過ごしていていいのかなー、いやダメなんだろうなー、ダメだけどまーしばらくはいっかー、とにかく腹の底から笑うことがあるし、そのうちなんとかなるんじゃないかなー、いやほっといてもなんとかはならないだろうなー、こういうダラダラと過ごせる日々にもきっと終わりが来るんだろうな…そんな気持ちの日々を肯定してくれる何かに出会えるかもしれない。

というのもそういったモラトリアムを過ごしている時、いつでも僕は彼らに肯定されていたからだ。

 

 

そしてその後に声をかけたのはナナ・イロのうつみあいちゃんだった。

彼女と出会ったのは、6、7年前にMOTORSのだいごう君と大宮司君が企画した音楽イベントに遊びにいった時のことだった。

その後僕が演奏で福井に行った時など、何度か会う機会があり、たくさん色々な話をした。

メジャーデビューするまでのことや、音楽との向き合い方、仕事のこと、家庭のこと、恋のことなど。

彼女のエピソードにはぶっ飛んだ話がいくつかあり、こんなにもエネルギーに溢れた人がいるんだなーと話を聞くたびにいつも笑いながら魂を揺さぶられていた。

彼女ばかりか彼女の父親もなかなかバイタリティーの溢れた人のようで、70歳で居酒屋を始めたり、オープンカーを乗り回したりして思いっきり溢れんばかりのエネルギーを放出しているとのことだった。

そのエネルギーは遺伝なのだろうか。

ちなみに彼女は4000gオーバーのビッグベイビーとして産まれてきたらしく(今もその病院の記録は破られていないとのこと)、彼女のエネルギーの強力さは生まれつきだったのかもしれない。

去年から英会話を始めフィリピンに行って歌ったりもしたりと、今も相変わらず日々エネルギーを惜しむことなく使い生きているようだ。

しかし、エネルギーが決して良い方ばかりに作用するばかりとは限らないだろう。

そのエネルギーが強いが故に深く傷ついたことも沢山あっただろう。

是非うつみあいちゃんのライブを生で見て欲しい。

勢いに負けてあんなこと言うんじゃなかった、あんなことやるんじゃなかった、やっぱ、あーしておけば良かった、これで良かったのかなー、もっと続けておけば良かったのかなー、何だか疲れたなー、まーもう別にいっかー…と何だかやりきれない夜に必要なものに出会えるかもしれない。

と言うのも僕が投げやりになった時に、見失ってはいけないものを教えてもらったからだ。

 

 

さて次に声をかけたのはMOYA君だった。

彼にはとりあえず謝っておきたいことがある。

あれは今から5、6年前のことだった。

由利君とMOYA君と3人で丸山公園に夜桜を見に行った時のこと。

しかしそれはまた次回書くことにします。

え、なんでこんなに中途半端な形で放ったらかしにするの、まだ途中で片付いてないよ、片ずけもせずに遊んでばかりは義務も果たさず権利ばかり主張しているオバハンと一緒だよ…。

というのも今まさに引越しの途中で、実生活も中途半端な感じだからだ。

ハイ!と言うわけでございまして、来月のイベントには皆さん絶対に来てくださいね!!

 

2019年5月25日土曜日

イベント名

HOLD ON , I'M COMIN!

●前売り2500/当日3000(共にドリンク代別)

●open18:00/start18:30

●チケット発売日4月1日

●場所 米子AZTiC laughs

 

<ライブショウ>

THE COMIN'(鳥取)

MOTORS(京都)

うつみあい(福井)

 

<ライブペイント>

MOYA(京都)

 

<DJ>

●APACHE(鳥取)

 

Lコード:62445

Pコード:144-070

e+(イープラス)

 

<問い合わせ先>

米子AZTiC laughs

鳥取県米子市道笑町1-3 BMEビル

0859-22-0727

laughs@aztic.net

営業時間

平日15:00-22:00

土日祝13:00-22:00

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2019年3月30日 (土)

HOLD ON I’M COMIN !

情報過多による感情過多で帰り道ガッタガタ。

自転車の乗り方忘れてしまいそう。

というわけでスマートフォンの見過ぎのせいでなのか、数日前から目の奥がズンと痛くなり頭がふわふわと浮かんでいるような感覚に陥ってしまった。

物件探しや、家電などを毎晩スマホでひたすら検索していたのが見過ぎの原因だ。

スマホから発せられるブルーライトがやはり人体にとって良くないのだろうか。

というような事をスマホで調べようと思ったけど、それすらも今はしんどくて億劫になり、必要最低限スマホを見ないようにしている。

今この文章はPCで書いているわけだけど、そんなこともあって頭がふわふわしながら書いている。

ささっと書いてやめてしまおうと思っていたのに、ブログの記事投稿の仕様が大幅に変更されていて、現在やり方を把握するのに手間取っている(焦れば焦るほどわからない〜)。

そんなに面倒でしんどいんだったら書かんでいいがなと言われそうだけど、書かないといけないことがあるので、気を抜けばふわふわ飛んでいきそうな頭に重りを付けて、中学校時代猫背で有名だったやつより猫背になってキーボードをひたすら連打している。

そしてその書かないといけないといけないことは何かと言うと、今度音楽や絵のイベントをするんですよ、だから皆さん絶対に来てくださいね!ということだ。

というわけで、要件を記します。

 

2019年5月25日土曜日

イベント名

HOLD ON , I'M COMIN!

●前売り2500/当日3000(共にドリンク代別)

●open18:00/start18:30

●チケット発売日4月1日

●場所 米子AZTiC laughs

 

<ライブショウ>

THE COMIN'(鳥取)

MOTORS(京都)

うつみあい(福井)

 

<ライブペイント>

MOYA(京都)

 

<DJ>

●APACHE(鳥取)

 

Lコード:62445

Pコード:144-070

e+(イープラス)

 

<問い合わせ先>

米子AZTiC laughs

鳥取県米子市道笑町1-3 BMEビル

0859-22-0727

laughs@aztic.net

営業時間

平日15:00-22:00

土日祝13:00-22:00

 

 

気がつけばわたしもナイスミドル。

労働、労働、労働、による疲労。

休みの日までカラダが悲鳴をあげてる。

いつからこんなになってしまったんだ。

しかし夢見るハートは失くしちゃいない。

今回アラフォーのアーティストを中心に、地元境港からはTHE COMIN'、京都からはニューアルバムを携えMOTORS、そして福井からはナナ・イロのうつみあい、それぞれがそれぞれの熱こもった演奏をしてくれる。

そしてフライヤーのイラストを手掛けてくれたMOYAがライブペイントで空間にストーリーを描き込む。

地元米子の若い世代からは、APACHEがDJで華を添えてくれる。

アラフォーにはドラマがある。

アラフォーじゃなくてもドラマがある。

人にはドラマがある。

特にこれといって何もないかもしれませんが、熱くて楽しそうな人達に会いに是非来てください!!!!

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中年になればなるほど、健康に気遣うことが増え、仕事の責任が増え、それ以外の責任も増え、歯をくいしばることが増え、時間に追われることが増え、寝るのって気持ちいいよなーと思うことが増え、体の表面のたるみも増え、体のメンテナンスや維持のために筋トレやストレッチをしたり、ヘルシンキ・ラムダ・クラブに夢中になったり、目に入ったゴミを毎日お風呂でとったり、変な病気に悩まされ変な薬を飲んだり、ミニスカのエッチなお姉さんと一緒に配線工事する夢を見たり、その夢の中で我慢できなくなってそのお姉さんのお尻を円を描くようにやさしく触ったり、いいところで目が覚めてガックシしたり、なんだかわけわかりなくなりながらも、最低限自分自身に対しての信頼関係を裏切らないように保ちながら、ちょっと待って!!を繰り返しながら日々をやり過ごすことが多くなった。

去年半年ほど通った英会話教室で、大好きなSAM&DAVEの曲のタイトルでもある『HOLD ON , I'M COMIN'』が『ちょっと待って今行く』というような意味だという事を知って、これは今の自分たち(僕だけかもしれない)にピッタリだと思って今回のイベントのタイトルに決めた。

ちなみに、イベントタイトルは語気を強めるために『’』を『!』に変更して『HOLD ON , I'M COMIN !』にした。

というわけで頭がフワフワとしているので、詳しいことは次回また書きますのでよろしくお願いします。

 

ところでこないだ境港のとある交差点で車に乗って信号待ちをしている時のこと。

コンコンコンと助手席の窓を誰かがノックしてきたので助手席の方を見ると、限りなくおばあさんに近い白髪混じりのおばさんがほんのりと笑みを浮かべ、何か言いたそうにしていたので、助手席のパワーウィンドウを開けてなんですか?と聞いてみた。

「米子駅まで行かないよね〜?」

どうやら米子駅まで行きたいらしく、乗せて欲しそうだったけど、「いえ、行きません」と丁重にお断りさせてもらった。

そもそも僕はその時仕事中だったし、米子駅まで行く用事もなかったし、仮に米子駅まで行く予定だったとしても絶対に断っていたと思う。

だいたいはっきりと米子駅まで行きたいけど乗せてくれませんか、と素直に聞けばいいものを「米子駅まで行かないよね〜?」とただ聞いてみただけを装って本当は、「え、どうかしたんですか?良かったら乗せて行ってあげましょうか?」と返してくるのを待っているのが見え見えで、その回りくどいいやらしい感じが好きになれなかった。

まーしかし仮に、素直に米子駅まで乗せてくれませんかと聞かれても絶対に乗せなかっただろう。

なぜならそのおばさんの前歯が全くなかったからだ。

 

先週の日曜日は甥っ子二人を車に乗せて、彼らのプレゼントを買いにエディオンに出かけた。

エディオンの駐車場に入ろうとしたところ、前方から自転車に乗った人が来たので先に通してあげようと車を停車させた。

その人は頭ボッサボサの髭面で、ぼっろいジャージにサンダル姿のガッリガリのおっさんだった。

「キッタナイおっさんだなー」

ふと独り言のように漏らすと、甥っ子二人は口を揃えて「え、しんじくんそっくりだよー」と言う。

言葉の響きが冗談で言っている時の響きではなかったので、ショックでハンドルを握っている手の感覚がなくなった。

その時なぜだか、先日米子駅まで乗せて欲しいと言っていたおばさんの顔が脳裏をよぎった。

「明日は我が身だよ…」

おばさんはほんのりと笑みを浮かべ、独り言のように呟いてそして僕の意識から消えた。

ぎゃ〜!!

皆さん、前歯が全部なくなってからでは手遅れなことがあるんですよ。

ブルーライトに殺される前に、歯を磨いてライブを見に行きましょう。

きっといいことがあるよ。

5月25日(土)は絶対に空けておいてください!!

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2019年2月28日 (木)

ヌケサクにはぬけさくを

古い付き合いの同級生と集まってえびす様の総本宮の美保神社に厄払い(前厄)に行ってきた。

というか、行く数日前まで僕は数え年の数え方も知らず、貝原益軒の『養生訓』も『養生くん』という傷や汚れからお守りするお助けゆるキャラだと思っていたし、新元号のことも『しんがんごう』と読んでしまうほどの能天気ぶりだったので、もちろん自分が今年前厄なのにも気づかず、友達に誘われるまでずっと遠い未来の話だと思って暮らしていた。

 

加えて迎えにきてくれたS君のスーツ姿を見て、正装じゃないといけないということをそこで知って、世間知らずのヌケサク感はさらに増して自己嫌悪の穴に片足がズッポシハマった。

 

その後車を走らせ本日お世話になる美保神社に到着。

おみやげ屋の前で他の友人を待っていると、T也が来やってきた。

 

どうやらヌケサクなやつは僕だけじゃなかったようだ。

 

T也は早生まれで前厄に該当していないにも関わらずしっかりとスーツを来て参加していたのだ。

 

俺よりヌケサクなやつがいてホッ。

 

しかしT也はスーツで来ている分、ジーパンにスニーカーにコート姿の俺の方が見た目的にはヌケサクだった。

 

他のメンバーもほぼスーツだ(一人は正装に近い私服)。

 

ブーーン!!

 

その時K君の車が駐車場に入ってきた。

 

K君が赤い帽子を被っているのが見える。

 

 

お、これはスーツじゃなさそうな予感。

 

 

 

いいぞ!

 

ガチャリと車の扉を開け降りてきた彼の姿をみて、僕の気持ちは一気に軽くなり、穴にハマっていた片足は無事に抜けた。

 

彼は派手な作業着姿だったのだ。

 

ふー、ヌケサクばかりで助かったぜホッ。

 

 

そして時間になり拝殿に上がりお祓いを受ける。

 

 

 

神主さんの祝詞の奏上。

 

僕の住所を読み上げる際に、少し言葉が詰まった感じがしたが多分問題ないだろう。

 

笛と太鼓が鳴り響いた中で巫女さんが鈴を鳴らしながらお祓いしてくれる。

 

全ての鳴り物が鳴り止んだ後の静寂が印象的だった。

 

終わった後、なんとなく清々しい気持ちになった。

 

帰りにみんなで昼ごはん。

 

あれこれと話が弾む。

 

今年結婚するというやつや、彼女が欲しいというやつや、子育てに忙しいやつや、別居することになり引っ越しをするという奴もいた。

 

最近夢精をして気持ちよかったとエロ話好きのM君。

 

彼は境内にいるときも巫女さんって処女らしいぞ、と興奮気味に話していた。

 

夢精した時の夢の内容をさっき見たかのように事細かに説明してくれる。

 

なぜか中学二年生の時の教室で、みんなのいる中でYさんを犯していたとのこと。

 

すげ〜気持ちよかったけんな〜、と喉仏を震わせながら話す。

 

彼は違う意味でヌケサクだ。

 

「夢精した時立っとった?」

 

誰かが質問した。

 

「いや、全然立ってなかった!

 

ふにゃふにゃのまんまだった。

 

だけどスッゲー気持ちよかったけんな〜!」

 

そんな彼に対して、夢精いいな〜!と言うヌケサクも数人いた。

 

また、M君とは反対にピーポコに関しては、もう立たんけんな〜、という奴や中折れしてしまうわ〜という奴もいた。

 

ピーポコの具合も人生の流れも人それぞれのようだ(ちなみに僕はどちらもぼちぼち!です)。

 

そしてみんな腰痛や通風など、体に色々とガタがきているみたいだった。
僕も去年の猛暑を抜けたあたりから、体のギアが一段階落ちたのを実感したし、右足の先の違和感(軽く誰かに摑まれているような感じ、という表現でもピンとこない妙な感じ)が数ヶ月間ずっと続いて取れないままだ。

 

この間は胸焼けが何日間も続き、病院で診てもらったら(初の鼻から胃カメラ)軽度の食堂裂孔ヘルニア(なんだその病名聞いたことないし、裂孔という響きがすげー怖いがな)と診断された。

 

簡単にいうと胃の一部が食道に入り込むという病気で、胃酸が食道に入り込み逆流性食道炎のような症状が起こり胸焼けが起こるというものだった。

 

肥満の人になりやすいとのことだったけど、僕は肥満ではないので、というかガリガリなので考えられる原因としては加齢とのことだった。

 

というわけで胃酸を抑える薬を服用し、過食を避け、食後2時間くらい横にならないなど、お医者さんに言われたことを気をつけるようになった(このお医者さんのアドバイスはそれこそ養生訓にもしっかりと書いてあった!)。

 

おかげで、食ってすぐ寝転がるようなことがなくなり、ストレッチをしたり、あれこれゴゾゴゾと作業をするようになって、随分時間を有効に使えるようになった。

 

こういったことは疾病利得の一つなのかもしれない。

 

これくらいの病気ならむしろなった方がいいくらいだ。

 

と言いたいところだけど、食後胸が詰まったような感じがするし胸焼けで夜目覚めてしまうこともあるし、やっぱいやだー。

 

帰りの車中、みんな一年が早く感じるようになったと口を揃えていう。

 

これはつまらない年寄りが恒常的に使うセリフで、そういうセリフを使うかどうかが一つの分かれ目だと思って忌み嫌っていたけど、認めざるスピードを感じるようになった僕は確実にそちら側に属してしまったんだなーと、またそれは僕だけじゃなかったんだなと、ホッとした反面、あっという間に過ぎてしまう時間の冷淡さを改めて恐ろしく感じるようになった。

 

しかし同世代のみんなとたまに会ってそれぞれの人生の戦い方を聞くのは、年齢を重ねるごとに面白くなってきたように感じた。

 

それぞれが抱える苦痛も、我が身を通して感じるられることが増えてきたような気もするし、そういった意味では今まで経験してきた苦痛もそれなりに有益に働きだしているのかもしれない。

 

側から見るとぶっ壊れてそうな人生に対して果敢に攻め続ける人がいたり、体の不具合に伴って柔軟に考え方を変えたり、ピーポコがふにゃのふにゃなのに彼女を作るという夢を追いかけていたり、パンチパーマにしようと思ったけど、美容師さんに周りの人がいきなりパンチパーマだとびっくりするから徐々にパンチパーマにしましょうね言われ、ラーメンの小池さんみたいな緩やかなパンチパーマになっていた人がいたりと、みんなそれぞれの生活を日々戦っているんだなーと、自然と彼らに畏敬の念を抱くようになったのも少し意外だった。

 

 
 
ところで最近当然のようにチャックが開きっぱなしの日が多くなってきた自分のヌケサクな感じは、『しんがんごう』な勘違いレベルでは収まりがつかないレベルに達しているんじゃないかと危惧している。

 

適度なヌケサクは周りをホッとさせるけど、度の過ぎたヌケサクは周りをイラつかせ不快にさせる。

 

先月大阪に月本さんのお手伝いで演奏しに行った時も、Cで演奏していた曲をGに変更したからよろしくーと事前に言われていたので、準備万端コードを書き換えて練習して、いざライブ前のリハーサルの時に確認したら、一音低いFに書き換えて練習していたので、ちょっと勘違いしてたーっていうレベルじゃなくて自分のヌケサク感にかなりびっくりして目の前が白黒点滅になった。

 

勘違いやヌケサクなのはおっさんだから仕方がないんだろうけど、それで片付けてしまうのは安直過ぎて妙なツボにハマってしまいそうで恐ろしい。

 

多分そのツボにハマってしまったら最後でもう抜け出せないような気がする。

 

しかし、もっと恐ろしいのは、それに対しての危機感がかなり薄れてきたことだ。

 

なんとかせねばこのままではやばい。

 

ということで対処法としては今の所何も思いつかないので、とりあえずついでにトンチンカンのLINEスタンプを買って、ぬけさく先生のスタンプを多用してごまかしている。

 

ところであいつは無事に引越しができたんだろうか。

 

僕もそろそろ部屋探しを始めなくては。



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2019年1月20日 (日)

ギターの誘惑

年齢の近い従兄弟から画像付きのLINEが届いた。

画像は藤の花の絵と、東北地方の新聞の切り抜きの画像だった。

どうやら、僕の父親が近代日本美術協会展に応募した絵が第45回の特選に選ばれたとのこと。

新聞に記載されている父親のコメントを読むと、「毎日歩く道で見掛ける藤が『描いてくれ』と言っているような気がした」と書いてあった。

画伯っぽいセリフに思わず吹き出してしまった。

なるほど、それで絵のタイトルが『藤色の誘惑』なんだろう。

なんだか70歳を越えたおじいさんがつけるタイトルにしては、胸の辺りがざわつくタイトルだ。

ふと前回描いた絵のタイトルが気になり、従兄弟とのトークを遡り画像を調べてみることにした。

ちなみにだいたいいつも父親の情報はこの従兄弟から入ってくる。

うーんと…。

確か女の人の絵を描いていたような気がするけど。

うーんと…。

あ、あった!

川辺で水面に指先をつけている若い女性の絵が出てきた。

画像を拡大してタイトルを確認する。

『揺れる想い』と書いてあった。

どうしてタイトルがいつも胸のあたりがくすぐったくなるようなものばかりなんだ。




父親は50歳くらいの頃再婚して、青森で暮らしており、もう10年近く会っていない。

一時はよく電話をかけてきていたけど、最近は年賀状をやり取りするくらいで、疎遠になっている。

多分絵は始めて10年も満たないはずだったと思う。

途方もなく地道な積み重ね。

今回の『藤色の誘惑』をみて、ふと筆を手にキャンバスに向かっている父親を想像してそんな言葉が頭に浮かんだ。

美しさや面白さの前に、努力の伝わってくるような作品はダメだ、と誰かがどこかで言っていたのをふと思い出した。

確かに、私はこんなに努力したんです!というような作品は、なんだか作り手から求められているものが強くて好きではない。

だけど、例えば大工さんが他の大工さんの綺麗な仕事を見て、技や努力の評価、そういった自分の仕事を通して見える評価などは、見る人側の発見だからシンプルで気持ちのいいものじゃないだろうかと思う。

そのように、多少なり絵を描いたことがあれば色を入れる際の筆の繊細さや、心の動き、色彩構図の葛藤、イメージと現実との齟齬、意図しない出会いと発見など、描き手の技や努力を想像して評価することもまたシンプルに気持ちのいいもののような気がする。

ただ、絵に関しての評価は、大工さんの仕事と違って人によっての好みの差が激しいから難しそうだ。

僕の場合この絵に関して言えば、入り口が従兄弟からじゃなく、父親から直接見せられていたら、また違う印象だったかもしれない。

きっと妙な親子関係から来る嫌悪感から否定的に入っていただろうと思われる。

『途方もなく地道な積み重ね』という言葉は変わらずに受け取っていたと思うけども。

ということもあり、取手の問題がかなり大きそうだけど努力の伝わってくる作品もそれはそれで得ることがあって良さそうだ。
 
 
さて、今月は大阪でファドの伴奏をさせていただきます。

ところで僕は今まで一体どれだけ弦を弾いて音を積み重ねてきたんだろう。

と、父親の絵を見たせいでそんなことを考えてしまった。

録音すれば残るということはさておき、幸か不幸か音は絵のように残らず消えてしまう。

だから音は出て消えておしまいかっていうと、どうやらそんなことはないようだ。

その証拠に実際音楽を聴いて世界の色が変わったのを体験した人は山ほどいるだろう。

また、場合によっては音楽は消えたあと、深く残ることがある。

体の底に沈殿するようなことがあって、何かのタイミングで体内に舞い上がってくることもある。

そして時には、音楽は誘惑してくることがある。

そう、こないだ僕は確かに誘惑された。

しばらくずっと腱鞘炎気味だったこともあり、ギターを全く弾いていなかった。

しかしある日いつもの部屋でギターケースを見ていたら、ギターが「弾いてくれ」って言っているような気がしたんですよ。

だから揺れる想いをギターにぶつけたんです。

 
 
…うーん、いまいちですね。 
 
 
 

いばリズムVol .1〜街に素敵な彩りを〜

2019年1月27日(日)

開場14時30分

開演15時30分

●会場 JK茨木

大阪府茨木市双葉町2−25

阪急茨木市駅より徒歩1分

TEL 072-638-3941

●料金 前売り2,000円 当日2,500円

※要チケットの購入 親子券あり 詳しくはお問い合わせください

●出演者

月本一史 Guitarra(ポルトガルギター)

田中真二 Viola(ギター)

●予約・チケット購入

TEL 072-697-8146(Seven Step Music)

E-Mail:ibarhythmvol1@gmail.com



みなさん、是非お越しください!!
 
 
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2018年12月31日 (月)

リングに染み込んだ汗は誰のために輝くのか

体が熱くなっているのは厚着のせいじゃないし、ユニクロの超極暖の9分袖のせいでもない。

いや、多少は超極暖のせいもあるかもしれないけど、体の中枢部から込み上げてくる好奇心が全身を駆け巡っているからだろう。

久しぶりの高揚感に自分でも驚いている。

何が始まるんだ、この先一体どうなるんだ…。

客電が落ち、暗くなった会場に格闘技とかである様なテンションの高いアナウンスが響き渡る。

おー、いよいよ始まるのか。

アナウンスに合わせてスクリーンに本日のイベントの内容が発表される。

ん?

自然と眉間にシワがよる。

スクリーンの画面がちっさくてよく見えない。

初めは席が遠いせいかと思ったけど、どう見てもスクリーンがちっさい。

スクリーンというか家庭用の少し大きめのテレビだ。

多分50インチくらいだろう。

「え、ちっちゃ!

全然見えんがな」

隣の席のおじさんも思わず声に出してしまっている。

ひとしきりアナウンスが終わり、今度はリングの上に一人のうつむきがちな男性が現れた。

アナウンスによると今回のメインイベントの挑戦者とのこと。

「ケンゴー!」

会場のあちらこちらから男性の名を呼ぶ声が上がる。

ケンゴと呼ばれる彼はマイクを持ち、静かに喋り出した。

彼の言ったことを要約すると、膝の怪我のため、今回のメインイベントで挑戦はできませんとのことだった。

「え〜!!」

会場中がどよめき嘆息を漏らす。

怪我が回復したらまた挑戦するのでまたよろしくお願いします、と頭を下げる彼の足元に客席からの力のないお愛想の拍手がこぼれ落ちる。

僕自身も、なんだやー今日はメインイベントがないのかーとうなだれる。

「オイ!オイ!オイ!オイ!オーーーイ!!!」

その時だった。

怒りの籠った激しい声が会場に響いた。

今度は威勢のいい男がリングサイドに現れた。

「ナニー!!

膝を怪我して試合に出られないだとー!

ふざけんなー!!

じゃあ今日は俺なんもできねーじゃねーかー!!」
 

どうやら彼はチャンピオンの様だ。
 

「お前言ってたよなー!

膝が壊れても絶対に挑戦するって!!

お前言ってたよなー!!!!」
 

なに!

ケンゴ、そんなこと言ってたのか!
 

「なのになんだよ!

『膝を怪我したから出られません』だと!

ふざけんじゃねーよ!!!」
 

ケンゴ、そりゃチャンピオンが怒るのも無理ないぞ。
 

「お前、膝がぶっ壊れても挑戦するって言ってたじゃねーかー!」
 

完全に頭に来たチャンピオンがリングに上がり、ケンゴをどつき始める。

客席のあちこちから「やめろ、やめろー」とケンゴをかばう声が上がる。

しかしチャンピオンの勢いは止まらない。

その時チャンピオンが何やらリングサイドにいた仲間に指示を出した。

そしてリングサイドから出てきた物をみて会場に悲鳴が上がる。

なんとチャンピオンの手に渡った物は大ハンマーだった。

「警察呼べー!」

客席がどよめきだす。

「もう戦えないんだったらその膝ぶっ壊してやるよ!!」

大ハンマーを手にしたチャンピオンはそう叫ぶやいなや、大きく振りかざした。

その瞬間一人の男が突如現れチャンピオンに一撃食らわせハンマーを取り上げた。

「おー!!

いいぞ!矢野さーん!」

会場中からその男の名を呼ぶ声が上がる。

そして矢野と呼ばれるその男はマイクを手にして、ケンゴの代わりに自分が挑戦するということをチャンピオンに伝え、その場は収まった。

「やーの!やーの!やーの!やーの!!」

会場中矢野コールで溢れかえっている。

僕も知らないうちに手を叩きながら矢野さんにエールを送っていた。

 

そもそもプロレスを生で観るのは初めてだ。

元々プロレスには全く興味がなかったけど、以前たまたま棚橋弘至選手がラジオで喋っているのを聴いて興味が湧き、一度生で観たいと思っていたところ、たまたま近所の港タワーでプロレスが行われるということだったので今回やってきた。

というわけでプロレスがどんなものかよくわからないまま、そしてもちろん今回の鳥取だらずプロレスがどんなものかもよくわからないまま僕は見にきたのだ。

しかし、この会場の雰囲気、チャンピオンと挑戦者のやりとり、なんだか肌が合う感じがする。

というか妙に血が騒ぐというか、燃えてくるものがある。

気がつけば上着もニット帽も脱ぎ捨て、僕の上半身はユニクロの超極暖9分袖むき出しの姿になっていた。

 

第一試合が始まるまでの時間、入場するときにもらったパンフレットを開きイベントの内容や選手のプロフィールを入念にチェックする。

ふむふむ、どうやら本日は因幡のバッファロー選手の25周年記念だそうだ。

豪円山武蔵や、因幡のバッファローや、ガイナタイガーや、DAISENなど、鳥取にちなんだ名前の選手がちらほらいる。

なるほど、さすが鳥取だらずプロレス。

ちなみに余談だけど、だらずプロレスの『だらず』とは、鳥取の方言で『バカ』という意味だ。

結構たくさん選手がいるなーと思いながらページをめくっていると、なんとあの棚橋選手がいるではないか!

えっまじで!

あの棚橋!?

ズッコケた。

もちろん偽物だった。

棚ボタ弘至という、まさにだらずっぽい感じの棚橋選手のモノマネ選手だった。

ふと目に入ったパンフレットの表紙の、『嘘みたいな本当が見たい』という言葉が妙に引っかかった。
 
 

そして場内にアナウンスが響き、第一試合が始まった。

バッファロー選手とセーフティーこうき選手の戦い。

軽やかにリングを駆け巡る二人。

リングとシューズが擦れる音。

ロープに弾かれ、肉体同士がぶつかり合う音。

ドロップキックやラリアット。

チョップの応酬。

軽快な実況。

お客さんのどよめき、歓声。

選手の叫び声。

場外乱闘。

ぶっ壊れるパイプ椅子。

どれもこれも新鮮で楽しい。

「うわー!」

「イター!!」

思わず声が漏れ、僕の額からも汗がにじむ。

第二試合は登坂選手という女の子の小学生レスラーも登場。

へー小学生レスラーもいるんだーと思っていたら、知らないうちにぞろぞろいろんな選手がリング上に現れ、さんだのない感じになってきた。

あ、あれは!

その中に例の棚ボタ選手もいるじゃないか。

しかし、写真より髪が短くなって棚橋さんの感じがなんだか薄くなっている。

棚ボタ選手はすぐに負けてリングを降りてしまった。

第三試合はガイナタイガーと悪役レスラーの対決。

ふてぶてしい態度で巨漢(パンフレットによると体重0.15トン)のDAISEN選手と藤原タクヤ選手が登場した。

「おなかぽんぽんだ〜」

「ほんとだ、おなかぽんぽんだね〜」

僕の後ろの席で、三歳児くらいとお母さんが会話しているのが聞こえてきた。

きっとDAISEN選手のまん丸なおなかを見て言っているんだろう。

DAISEN選手はそんなホノボノした親子が居ようがおかまいなしに手を振りかざし、客席に向かって挑発してくる。

さすがヒールレスラー、容赦なしだ。

「あんぱんまぁ〜ん!!」

その時、さっきの子供がDAISEN選手に向かって叫んだ。

子供にはアンパンチに見えたのかもしれない。

その子は、DAISEN選手の試合が終わるや否や、お母さんに「はやくかえろうよ〜」と懇願して帰っていった。

あっという間に第四試合。

乱魔選手と木谷選手のシングルマッチ。

試合中木谷選手は膝が痛そうだった。

試合後の休憩時間の時に自販機の側で木谷選手を見かけた時も、膝を痛そうにして歩いていた。

肉体を酷使する仕事は大変だ。

 

休憩が終わり、セミファイナルが始まった。 因幡バッファロー選手チームとマグニチュード岸和田選手チームとのタッグマッチ。

岸和田選手、とにかく強い。

あらゆる攻撃にもビクともしない。

因幡バッファロー選手が25周年だろうと容赦ない攻撃を食らわす。

もちろん岸和田選手が圧倒的な強さで勝ったが、因幡バッファロー選手も清々しそうだ。

バッファロー選手はこれからも50周年を目指して行くそうだが、是非とも応援していきたい。

 

そしてついにメインイベントが始まった。

チャンピオンの佐伯選手は悪役レスラーのDAISEN選手達を引き連れてリングに登場。

またしても大ハンマーで矢野選手を襲おうとする。

またしても反則行為!

なんて悪い人たちなんだ!

レフリーが止めに入り、他の選手を退場させないと佐伯選手を失格にすると指導すると、慌てて佐伯選手がDAISEN選手達を退場させた。

そして矢野選手と佐伯選手の一騎打ちが始まった。

が、しばらくすると、場外乱闘になりさっき退場を命ぜられたはずの選手達も現れ、矢野選手を襲う。

止めに入った年配のレフリーが悪役レスラーに襲われ、そのまま控え室に送られてしまい、レフリー不在の無法地帯と化した。

矢野選手もずっとやられっぱなしだ。

悪役レスラーが勝手にレフリーをやりだしたり、収拾がつかなくなっている。

その時、軽い身のこなしで一人の男がリングに立った。

颯爽と洗われたその男は代打のレフリーで、悪役レスラーを追い出し、試合を立て直す。

ムードが一転し、会場の熱も上がる。

その後も佐伯選手優勢の試合展開が続くが、決して矢野選手も3カウントを取らせない。

レフリーも事あるごとに、「矢野!行けっ!!」とけしかける。

「矢野ー!!」

「矢野さーん!!!」

会場のあちこちから、矢野選手への声援が上がる。

僕も無意識のうちに「矢野さーん!」と叫んでいる。

「やーの!!やーの!!やーの!!!」

矢野コールの中、矢野選手は形勢逆転させ、佐伯選手から3カウントを奪った。

決して派手な勝利ではなかったけど、溜飲が下がる思いだった。

勝った矢野選手も涙ぐんでいるように見えた。

チャンピオンベルトを手にした矢野選手に向かってみんな思いっきり拍手を送っている。

そして最後は会場全員で

「行くぞー!」

「おー!」

「だ!ら!ず!」

「ダーーー!!!!」

で締めくくって終わった。

いつぶりに叫んだだろうか。

サイコーに爽快な気分だった。

 

帰り間際、僕は物販コーナでステッカーとキーホルダーとトートバックを購入した。

購入する際、さっきまで戦っていたヒールの佐伯選手が丁寧に対応してくれた。

トートバックに佐伯選手のサインをいただき、握手をしてもらって会場を出る際に、DAISEN選手がいたのでお疲れ様でしたと挨拶を交わした。

その時ふと、矢野選手にもありがとうございましたと伝えたくなり、再び会場内に入って姿を探したけど、ファンの方の対応に追われて大変そうだったので、遠慮することにした。

 
 

今回、矢野選手を含め、アラフィフの選手が全力で戦っている姿が印象的だった。

木谷さん、本当に膝が痛そうだったし、今回挑戦できなかったケンゴ選手も実際怪我で大変だったんだろうと思う。

僕も来年で40歳になる。

他人になかなか伝わらない、そしてなかなか緩和されない身体の痛みとの戦いも中年以降のテーマだ。

パンフレットの表紙に載っていた『嘘みたいな本当が見たい』という言葉の意味を少し感じられたような気がしたが、正直まだよく分からない。

だけど、選手やお客さんを含めプロレスに本気の人たちを確かに見た。

ましてや50歳近くであんなに激しくぶつかり合うなんて、嘘のようで確かに本当だった。

そして僕は上半身ユニクロの超極暖9分袖むき出しの上に上着羽織り、ニット帽を被って帰路に着いた。

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2018年11月30日 (金)

ムイト・リシュボア

レジなどの支払いで、財布を出すのにもたついているおっさんなどをみるとついイライラしてしまう。

駅の改札などでも同様、もたついているおっさんをみると、どうしてあらかじめ財布や切符を用意していないんだ、後ろで待っている人もいるんだぞ、とついイライラしてしまう。

なので自分もそうならないように気をつけるようにしている。

はずだった。

先日アンドレー・ヴァスのコンサートで羽田から大分へ行く際、空港の保安検査のゲートで搭乗券が見当たらず、もたついてマゴマゴしてしまった。

さっき確かにズボンの左ポケットに入れたはずなのに、無い。

ない。

ない!

なんでだ。

なんでねーだ!!

月本さんもアンドレーも通訳の森田さんもスラリとゲートを抜けて向こう側で待っている。

あらゆるポケットに手を突っ込む。

あれ?あれ?あで?

なんで?

えっ、なんでないだ?

財布にも入っていない。

えっ、えっ、えっ、なんでないだ!

「しんじくんとりあえず後ろの人通してあげて!」

月本さんの声で後ろの人の存在に気づき、とりあえず道を空けてあげないとと思い移動しようとした方向がゲートの向こう側で、「こっちはだめ!」と係の女性と月本さんに止められる。

どんくさすぎて軽いパニックに陥る。

ふーっと心の中で一息ついて改めて再度ポケットに手を入れてみると、あるはずで無かったはずの搭乗券があった。

あで、あった。

まー、あったしいいかーとホッとしてゲートを通過する。

こういうおっさんにだけはなりたくなかったんだけど、と思い「すんませーん」と言いながらみんなの待っているところに行くと、「大丈夫です、考え事をしていたんですね」と森田さんが笑顔で優しい言葉をかけてくれる。

いや、違うんです、むしろチケットのことを考えて、数分前に忘れないようにしっかりポケットに入れておいたのを確認していたんです…。

苦笑いの僕の傷口に、彼女の言葉が心地よくしみた。

 
 
その後搭乗待合室でみんなでエッグセレントのエッグタルトを頬張る。

初めて食べたエッグタルトだったけど、今でもしっかりと味と食感を思い出せるくらい印象深く、程よい甘さで美味しかった。

ちなみにエッグタルトはポルトガル発祥のお菓子とのこと。

その後搭乗開始となり、列に並ぶ。

今度はしっかりとあらかじめ搭乗券を握りしめている。

あれ?

しかし、気がつくとみんなの姿がない。

え、なんでだ?

さっきまでそこにいたはずなのに。

「おーいしんじくーん!3番の搭乗は終わってるよー!」

ゲートの向こうから月本さんの声が聞こえてくる。

僕の番号はすでに搭乗開始していたようだ。

またまた、もたついてしまった。

再び「すんませーん」とゲートを抜け、みんなのところに行くと、今度はアンドレーもゲートのところでチケットが見当たらずマゴマゴしていたとのことだった。

お、アンドレーも俺と一緒でおっさんだな。

いいぞ、いいぞと妙に安堵してしまった。

そんなマゴつくおじさんの僕たちを乗せた飛行機は大分を目指して飛び立った。
 
 


大分県に来たのは初めてだった。というか、そもそも九州自体来るのが初めてだった。

大分空港から出た僕らを、10月とは思えない太陽の笑い声が聞こえてきそうな強い日差しが出迎えてくれた。

大分市に向かうバスに乗り込み出発を待っている時だった。

不意にアンドレーから紙袋を差し出された。

紙袋を受け取り、封をしてあるセロテープをゆっくり剥がして中を取り出すと、トランプとポルトガルギターを型どったカラフルな柄のマグネットだった。

森田さんが、ポルトガルではトランプをカルタと呼び、日本のカルタの語源がポルトガル語だということを教えてくれた。

わざわざ遠路遥々きてもらって、さらにお土産まで頂いてありがたいことこの上なかったので、アンドレーに「ムイト・オブリガード」と、オブリガード(ありがとう)を強調した言葉で伝えた。

いやー、これは嬉しすぎるなー。

たまんねーなー。

どうやって部屋に飾っておこうかなー。

と思いながらお土産を眺めていたら、後部座席の方からアンドレーの声が聞こえてきた。

すると森田さんが、

「アンドレーがこれあげたんだから明日の演奏はしっかりやってね!って言ってますよ」

と笑顔で伝えてくれた。

「えっ!!」

僕はハッと我に返り、アンドレーに「じゃあ返す!返す!!」と言うとアンドレーは慌てた僕をみて笑っていた。


その時この日の朝のことを思い出した。

蒲田のホテルから羽田空港に向かう道中で、会話をしながら歩いていた時だった。

「昨日の夜ホテルで寝ようとしとったら、外からお祭りの練習かなんか知らんけど、笛の音が聴こえてきたんだけど、聞こえんかった?」

僕がそう森田さんに尋ねると、いや、知りませんねーと首を振り、そのことをそのままアンドレーに通訳して伝えていたので、ついでに「昨夜アンドレー、ホテルで笛の練習してなかった?」と聞いてもらった。

するとアンドレーは「笛?やってない、やってない」と首を振りながら笑っていた。

去年はそんな冗談を言うこともなかったなーと、しみじみとバスの中から外の景色をぼんやり眺めていたら、前の席の月本さんが窓とシートの隙間から振り返ってこちらを見ていたので目があった。
 
 
 
 
ホテルに無事到着し、夕方大分駅から一駅離れた海沿いのスタジオでリハーサル。

去年やった曲は去年よりも落ち着いて演奏できているのを感じる。

急遽演奏することになった『Gostei de Ti』も心配していたわりには、合わせてみると新鮮さもあり、明るい予感を孕んでいるのを感じることができた。

リハーサルの終盤にアンドレーは「ステージで歌っている時俺が感じていることを一緒に感じて欲しい」と言ったので、僕はステージ上にいるアンドレーをイメージして頷いた。

僕らがスタジオを出た頃にはすっかり暗くなっていて、向こう岸の街明かりが綺麗に揺れているのが見えた。

駅まで歩いて、ホームで電車が来るのを待つ。

大分駅と一駅離れただけでこうも違うのか、というくらい、落ち着いた景色と空気が流れている。

電車を待っている間、物販についてアンドレーと月本さんがディスカッションしている。

ロジカルに会話するから信頼関係が築けているのか、信頼関係が築けているからロジカルに会話するのか、いや、信頼関係を大切にしているからロジカルに会話しているんだろうな。

というようなことを、二人の会話を聞かせてもらいながらふと思った。
 
 
 
夜は駅前の居酒屋でみんなで食事。

とり天、リュウキュウを始め美味しいものだらけで、酒が進む進む。

ちなみにアンドレーは(去年もそうだったけど)箸を使うのがとてもうまい。

さらに近くの居酒屋へはしご酒。

すっかりみんなご機嫌。

僕は結婚を決めた経緯や、歌うときに大切にしていることなど、アンドレーに質問してみた。

お客さんの為に歌っている、心を込めて歌っているというシンプルで明確な回答に妙に納得した。

その後解散して、僕と月本さんは洗濯物を持ってホテルのコインランドリーへ。

洗濯が終わるのを待っている間缶チューハイを飲みながら月本さんとあれこれ話をする。

この日はいつぶりかの、とても美味しい料理とお酒の夜だった。
 
 
 
 
本番当日は快晴でやや風が強い。

割とステージ衣装のスーツがタイトなため、財布を入れると圧迫感があるので裸銭をポケットに忍ばせてホテルを出る。

リハーサルを終え、本番が始まる。

ファドで野外での演奏は初めてだ。

月本さんのポルトガギターからこぼれ落ちた雫をすくい取るように『Canoas do Tejo』の伴奏を刻み始める。

いつものことながら本番で月本さんのギターラ(ポルトガルギター)の音は瑞々しさと鋭さが増す。

アンドレーのやわらかで存在感のある歌声が辺りに広がっていく。

『Não Vele a Pena』でも、アンドレーのこぼれ落ちてくやわらかな言葉をすくい取る様に、僕は右手の親指で弦を弾く。

MCの時の森田さんの通訳も、凛としていてとてもいい感じだ。

中盤で一曲だけアンドレーはギターラを持ち、今度は全員で『Fado Lopes』を演奏する。

左からは月本さんのポルトガルギター、右からはアンドレーのポルトガルギターが響いているという、この贅沢なステレオ効果で、ここ最近の嫌なことが全てぶっ飛んでしまった。

負の感情の蓄積が清算されて吐き出されていったのを感じた。

思いのよらないところで、マイナスが帳消しにされることがあるんだなー。

と思ったところで、出だしでつまずいてしまった曲があった。

どんな時でも危機感を失った時が一番危険だ。

やってしまったなー、申し訳ない。

という気持ちにどっと押されそうな時、ふと昨日のスタジオでのアンドレーの「歌っている時俺が感じていることを一緒に感じて欲しい」という言葉を思い出した。

改めてアンドレーを意識してみる。

というか、意識するまでもなく当然、俺はどんどん歌っていくよー!

というようなポジティブな感情が伝わってくる。

そして当然でしょう、と言わんばかりの月本さんのポルトガルギターの音色が響いている。

曲が終わり、アンドレーのMCを森田さんが訳す。

「みなさんどうでしたか?

出だしは失敗したけど、うまくいきましたよね?」

客席から笑い声が起こる。

経験も豊富で、ちょっとしたトラブルもユーモアに変え、全て自分の魅力でカバーする。

うーん、演奏での借りは演奏で返すしかないだろう。

『Canto o Fado』をみんなで歌う頃には僕を含め、会場中にアンドレーの魅力が伝染していた。

終演後、アンドレーは森田さんと物販コーナでCDを販売しながらお客さんと笑顔で会話をしている。

「シンジ!」

その場所を通り過ぎようとした時、アンドレーに呼び止められた。

ハッとアンドレーの方を向くと、僕の足元を指差している。

足元に目をやると、千円札が落ちている。

裸で入れていたお札が、スマホを取り出そうとしたタイミングでポケットから落ちたんだろう。

演奏だけでなく、お金の借りまでできてしまった。 僕は笑いながら「オブリガード」とアンドレーに伝えた。

 
 
 
その後ポルトガルワインフェスティバルをみんなで楽しみ、夕方に竹瓦温泉へ。

ポルトガルでは温泉の習慣がないらしく、昨年松山ではアンドレーは道後温泉に入らなかったけど、今回は温泉に挑戦してみるとのことだった。

僕はかなり温泉好きで色々と行くけど、さすがここ大分は温泉県だけあって佇まいや料金などなかなかディープで素敵な温泉だった。

入浴料100円は安過ぎ!

それにしても、初めての温泉にしてはちょっとディープ過ぎるんじゃないかと危惧していたけど、アンドレーも湯船でゆったりリラックスしているようで良かった。

疲弊している身体に温泉が染み込む。

ふーっと自然と声が漏れる。

サイコーだなー。

湯船を出て体を拭きながら脱衣場の窓の外を眺める。

んー、ぼちぼち観光客がいるなー。

歩道を歩いている人が見える。

ん。

あれ、外からピーポコが見えてしまうんじゃないかな。

と思ったけどサッシが腰から下は見えないくらい、の絶妙な高さだったので大丈夫だった。

ふー、良かった。

けど、アンドレーもこの感じびっくりしなかっただろうか。
 
 

その後近隣をぶらつき、境港で言うところの夢港タワーみたいなタワーに上り、アンドレーが百均に行きたいとのことだったので僕たちはデパートへ向かった。

デパートに入りアンドレーと森田さんは百均に行き、僕と月本さんは暇つぶしにスポーツ洋品店へ向かった。

売り場を適当に歩いていると、プーマのシンプルで素敵なパーカーがあったので店員さんに試着していいですかと尋ねると、それは女性用で一番大きいサイズでもLしかありませんよとのことだった。

女性用でもサイズが合えば全然問題ないのでとりあえず試着させてもらうことに。

しかし、やっぱり肩や腕がキツイ感じがする。

僕の試着姿を見た月本さんも、それはちょっと厳しいかなーといったコメントだった。

「いや〜、でもお客さんいいじゃないですかスリムで〜。

私なんかだったら絶対に着れませんよ〜」

店員のおねえさまが自分の体型を引き合いに出して、着れなかった僕を慰めてくれる(?)ようなことを言ってくれた。

「もう私お肉が全然取れなくってダメなんです〜。

お米ばっかり食べてるからダメなんですかね〜。

でも、お米が美味しくって食べちゃうんですよね〜」

次第に店員のおねえさまの話題が膨らんでいく。

「あー、でも大分は食べ物美味しいですよねー」

月本さんも相槌を打つ。

「そうなんですよ〜。 あ、お客さんはどこか県外から来られたんですか〜?」

という感じで、餅つきペッタン、コネコネの法則でどんどん会話に粘り気と膨らみがつき、僕たちが演奏の仕事で大分に来たことや、彼女がBOOWYの大ファンでピアノが少し弾ける事、ギターとベースの違いがよくわからないことなどあれこれ話を聞かせていただいて、最終的に記念撮影をしてフェイスブックで繋がりましょうということになって別れた。

結構な時間お喋りをしていたし、アンドレー達待ちくたびれているんじゃないかなと、僕らは急いで百均のフロアーに戻る。

心配をよそにアンドレーと森田さんはカゴいっぱいにおもちゃを入れて買い物を楽しんでいた。

 
 
その後僕たちは一旦ホテルに戻り、45分後の20時にロビーで集合してみんなで晩飯に行こうということになり、その間僕と月本さんは不要な荷物を各自家に送るため、荷造りをしてヤマト運輸へ向かうことにした。

部屋で荷物をまとめ、フロアでエレベーターを待っている時だった。

アンドレーが家族とテレビ電話で会話している声が聞こえてきた。

日本とリスボンでは9時間の時差がある。

こっちが今、夜の19時30分ということは、だいたいリスボンは今はお昼前の11時30分。

今から昼飯何食べるのー?

だとか、ステージのこと、日本食のこと、初めての温泉のこと、そんなことを話しているんだろうか。

息子の声も聞こえてきた。

変わらず元気でいることを確認して、お互い安心しているんだろうか。

 
 
ロビーで月本さんと落ち合い、スマホのマップのアプリを頼りにヤマト運輸を目指し歩く。

途中石畳の通りで、キャリーバックのタイヤが石に引っかかって往生していると、月本さんがリスボンはこんな道ばっかやで、と教えてくれる。

なるほど石畳の道は素敵だけど、そういう難点もあるんだなー。

その後、石畳の道を見るたびリスボンだと思うようになる。

そしてしばらくして目的地に到着した。

のだけど、明らかに真っ暗なビルがあるだけ。

あれ、確かにここのようだけど。

あたりを見渡してもヤマト運輸の看板はない。

改めてビルの窓ガラスを見てみるとテナント募集の看板が貼ってある。

どうやらこの店舗はもうすでに店を畳んでしまっているようだった。

仕方なく月本さんが再度検索し直して、もう一店舗の方を目指して歩くことにした(幸いもう1店舗徒歩圏内にあった)。

森田さんに事情を連絡して20時を過ぎてしまうことを伝える。

移動中さっきのデパートのおねえさまの話題で盛り上がる。 フェイスブックで申請するって言ってたけど、本当に来るのだろうか。

と、話していたらちょうど僕のスマホが鳴り、メッセージとフェイスブックの申請が届いた。

おー、来たー。

月本さんにはまだ届いていないようだ。

しかししばらくすると、月本さんのスマホの着信音もなった。

おー、来たー!

信号待ちで月本さんははめていた手袋を外し、ポケットからスマホを取り出し画面を確認する。

どうやら違う人からのメッセージだったようだ。

その間信号が青に変わったのを見て、慌てて手袋をはめようとした月本さんが、段ボールの包みと手袋を落としてあたふたしている。

空港でマゴマゴした僕とアンドレーに引き続き、月本さんもマゴマゴしているじゃないか。

なんだかわからないけど収まるべきものが収まり、これで何かがしっくりハマった感じがした。

そしてヤマト運輸で荷物を送り、無事月本さんにもデパートのおねえさまから申請が来て、待たせていたアンドレーと森田さんと合流して晩飯になった。

それにしても大分の料理は、あのおねえさまの言う通りお米をはじめ本当に美味しい料理ばかりだ。

お酒も進み、会話も弾む。

ポルトガルでは初夏にカタツムリを食べるらしく、森田さんは初め見た目が馴染めず食べるのに戸惑ったとのこと。

アンドレーがカタツムリを美味しそうにチューチュー殻を吸い込むように食べる仕草をしている。

月本さんはカタツムリを食べながらふと、二つの突起物と目が合うと一瞬手が止まってしまうと言っていた。

聞いていたら興味が湧いてきて僕も食べてみたくなった。

そういえばツアー中、アンドレーとポルトガル語で会話した後に、いつも月本さんと森田さんが僕にも分かるようにと日本語で話してくれたので、僕も会話に参加して楽しむことができた。

こういった月本さんと森田さんの気遣いと労力には、本当に感謝しかない。

そして僕は頃合いをみて、昨年アンドレーにもらいそびれたサインをもらうため、CDとペンをカバンからそっと取り出してお願いをした。

アンドレーはなにやら色々とメッセージを書いてくれている様だった。

え、なんて書いてくれたんだろう、とドキドキしながら待つ。

しばらくして書き終わり、インクが伸びない様にフーッと丁寧に息をかけて文字を乾かしてくれている。

アンドレーのこういった気遣い、丁寧さが自分にはかけているなーと、妙に感心する。

そしてインクが乾いたのを確認し、アンドレーはシンジにメッセージを訳して伝えてやってくれと森田さんにCDを手渡した。

いよいよ、メッセージが伝わる。

なんて書いたんだろう。

ドキドキ。

「ん、あ、え…リスペクトと…ん?愛を…え?」

なんだか森田さんがマゴマゴしている。

アンドレーもあれ、なんかおかしかった?という様な表情をしている。

どうやら達筆すぎて、字が読めなかったらしい。

その後月本さんも解読に参加して、メッセージが伝わった。

根幹に響くメッセージだった。

ただこのメッセージは僕にとっては文面にすると、効果が薄れてしまいそうなタイプのメッセージだったので省くことにするけど、確実にじわりと染み込んだ。

そしてうまく言葉にして返すことができずにいると、アンドレーが、本当だよ、とそっと言葉をくれた。

リュウキュウやとり天など美味しい料理を中心に、美味しいお酒と会話が続く。

そして話題は、行ったことのある国の話になった。

みんなそれぞれ色んな国に行ったことがあるとのことだったけど、僕は海外は疎か、今回の九州も初めてだったというと、アンドレーにどこか行ってみたい国はある?と尋ねられた。

「ムイト・リシュボア」

みんなの頭の上にハテナマークが浮かんでいる。

「ムイト・リシュボア」

僕はもちろんリスボンに行きたいと、そんな思いを込めてありがとうを強調したムイト・オブリガードの『ムイト』にちなんで「ムイト・リシュボア」と言った。

もちろん間違ったセンテンスだったけど。

店を出ると少し冷たい乾いた風が頬に触れた。

記念撮影でもしようということになり、みんなで大分駅前の大航海時代の世界地図の描いてある路面の前で、Lisbonを見つけてパシャリ。

「演奏もそうだけど、立ち振る舞いとかもっとよくできたんじゃないかなー」

帰り道、ホテルに向かう途中で月本さんがそっとつぶやいた。

性格なのか、ついいつも考えてしまうとのこと。

こういった積み重ねが今につながってきて、そして次につながっていくんだろう。

アンドレーや森田さんからも、去年から丁寧に積み重ねてきたものがあるのを感じたし、これからも日々積み重ねていくんだろう。

さて、僕は明日から一体何を日々積み重ねていこうか。


 
 
翌日、僕は電車で帰るため、みんなをバス停に送って別れた。

 
車窓から見える景色は、おとといみんなで歩いた海沿いの道と、昨日みんなで登ったタワーだ。

多分あれは、あのおねえさまのいるデパートだな。

そして景色はどんどん遠ざかっていく。

外に気持ちのいい風が流れているのがわかる。

今回はみんなマゴマゴしてたなー。

なぜだか去年より早い段階で胸が揺れている。

きっと僕はサウダーデを感じているんだろう。

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